STEP9 「オリジナルを始めよう」



これまでSTEP1〜8にて述べてきた事柄を忠実に実行するだけで、あなたはファッションパンクではないちゃんとしたセックス・ピストルズのコピーバンドを作ることができたでしょう。
さて、セックス・ピストルズのコピーが十全に行えるようになったら、次はいよいよオリジナル曲を始めましょう。
もちろん、オリジナルを始めるとしても自由気ままに好き勝手やっていいというわけではありません。
心は常にピストルズのコピーバンドをしているくらいの気持ちで、パンクの基本姿勢を遵守しつつオリジナルを行わなければならないのです。

勘違いしている人も多いと思いますが、オリジナルとはそもそも「原始の、初期の、本来の」という意味です。
つまり、オリジナルとは「ピストルズに忠実である」という意味なのです。
ですから、あなたはこれまでに培われてきたパンク的伝統に根ざしたオリジナル曲を作らなければならないのです。
それは、決して好き勝手に自分の曲を作っていいという意味では無いのです。
オリジナルの意味を履き違えてしまえば、あなたはファッションパンクと罵られてしまうでしょう。
STEP9ではオリジナルを行う際に絶対欠かすことのできないポイントについて解説いたします。

・タイトルを決めよう

オリジナル曲を作るにあたり、まず最初に決めたいのがタイトルです。
「はじめに言葉ありき」という聖書の文面もある通り、モノにカタチを与えるにはまず言葉が必要なのです。
これをパンクのオリジナル曲製作に敷衍して言うならば、まずタイトルから決めることにより、その曲の中で叫びたいテーマを明確にするのです。
パンクというものは愛だの平和だのを歌ってしまえばそれだけでファッションパンクです。
先にパンクワードをタイトルに掲げることで、自分たちの創作する方向性を限定し、うっかりミスを予防するのです。

そして、やはりここでも、私たちの指針となるのは偉大なるセックス・ピストルズです。
私たちは彼らが付けたタイトルを研究することで、パンクに相応しいタイトルが何であるのか学ぶことができるのです。
では、セックス・ピストルズのアルバム『勝手にしやがれ』から各曲のタイトルを挙げてみましょう。

『NEVER MIND THE BOLLOCKS 勝手にしやがれ』 1977  

1. HOLIDAYS IN THE SUN 
2. BODIES  
3. NO FEELINGS 
4. LIAR  
5. GOD SAVE THE QUEEN  
6. PROBLEMS  
7. SEVENTEEN  
8. ANARCHY IN THE U.K.  
9. SUBMISSION  
10. PRETTY VACANT  
11. NEW YORK  
12. E.M.I. 

どれも素晴らしいパンクなタイトルばかりですね。
では、この中から特にパンク的でみなさんに説明し易いものを幾つか例に取り、正しいタイトル付けについて解説したいと思います。

まず、1の「HOLIDAYS IN THE SUN」を見て下さい。
HOLIDAYはそのまま「祝日、休日」という意味であり、また、ここでのSUNはSUNDAYの省略と思われます。(「太陽の中の祝日」では意味がわかりませんからね)
ですから、1の意味は直訳すると「日曜日の中の祝日」。
つまり、「祝日が日曜にかぶって損したぜクソッタレー!」という労働者の怒りの声なのです。
激しい肉体労働に喘ぐイギリスの若者たちの感情がストレートに伝わってくる、素晴らしいタイトルです。
これに倣って、私たちも自分なりのタイトルを付けてみましょう。
大切なことは休みを一日潰された怒りをストレートに表現することです。
「代休だよな?」などが適切なタイトルといえるでしょう。

次に、少し飛ばして4の「LIAR」を見てみましょう。
LIARとは「うそつき」という意味です。人を罵倒する言葉ですね。
そのような言葉はパンクのタイトルとして相応しいということです。
これに沿ったタイトルを考えるのは簡単ですね。
「アホ」「ボケ」「カス」「クソッタレー!」「ヤムチャ」など幾らでも思いつくでしょう。

さらに9の「SUBMISSION」ですが、SUBMISSIONとは言うまでもなく「関節技」という意味です。
パンクロックに暴力は付き物ですが、このように他者への攻撃手段やテクニックも全てパンクのタイトルとして相応しいものなのです。
ですから、「カラテ」「ケンドー」「ガン=カタ」などのタイトルを付けるとパンク的といえるでしょう。

11の「NEW YORK」は、これも言うまでもなくアメリカ合衆国の都市の名前です。
つまり、都市の名前というのはそれだけでパンクのタイトルとして相応しい語彙なのです。
なぜそうなのかは良く分かりませんが、ピストルズがそうしているのだから間違いありません。都市の名前はパンクなのです。
ですから、私たちもそれに倣い、日頃良く訪れる都市の名前などをタイトルとすれば良いでしょう。
私の場合ですと「アキハバラ」「ビッグサイト」などになります。

とにかく人間とは惰弱な生き物です。
その弱々しい感情は、ややもすればすぐに怒りを忘れ、愛や平和などへ流れてしまいがちです。
私たちパンクロッカーはそれらの揺らぎやすい感情を押し殺し、パンクの伝統に沿ったテーマを歌わなければならないのです。
自分の感情をコントロールすることは非常に難しいことです。
だからこそ、このようにタイトルをパンクワードに限定し、愛や平和に流れないようしっかりと予防対策をしなければならないのです。
オリジナルを始めるにあたり、正しいタイトルを付けることの重要性をご理解頂けたでしょうか。

・詞を作ろう

前項「タイトルを決めよう」にて、確固としたパンクイメージを保持することの重要性はご理解頂けたと思います。
ですが実際のところ、テーマはしっかりパンク的であっても、リリック(歌詞)に「パンク的であろう」とする注意が払われていなければ、全体としてパンクなイメージを醸すことはできないのです。
考えてもみて下さい。
あなたの歌いたいことがどれほど卑猥で破壊的であっても、そのリリックを構成するワード一語一語が理知的で美しければ、その歌詞に触れた人は卑猥で破壊的なイメージを抱くでしょうか。
いえ、むしろその人は耽美的なイメージを抱いてしまうでしょう。
谷崎潤一郎やボードレールの例を見ても、彼らをパンクとするわけには行きません。

では、どうすればパンクに相応しい卑猥で破壊的なリリックを書くことができるのでしょうか。
基本は乱暴な言葉を使うことです。
幸いなことに、乱暴な言葉を使うことは難しいことではありません。
何故なら、普通の言葉を乱暴な言葉に直すには幾つかの明確なルールが存在し、具体例をもって示すことができるからです。
私はこれから、それらの乱暴な言葉遣いをするための幾つかのルールを記します。
それらを理解し応用するだけで、あなたは最低限の基準は超えたリリックを書くことができるようになります。
100点満点のパンクリリックを書くことは非常に難しいことです。
ですが、人からファッションパンクと蔑まれない最低限のパンクリリックを書くことは努力次第で十分可能なのです。
適切なパンクリリックが書けるよう、ルールの習熟に励んでください!

1、人称代名詞

人称代名詞はもっとも使用頻度の高い言葉の一つです。
それらを全て口汚い乱暴な表現に改めるだけでも、あなたのリリックは格段にパンクなものとなるでしょう。
ここでは一人称・二人称・三人称についての変換例を挙げておきます。

一人称に関しては、一般的には「私」「ぼく」「オレ」などが使用されますが、パンクロックにおいては「オレ」を使っておくのが無難です。
稀に「オレさま」を使うことが効果的である場合もありますが、多くの場合ジャイアンと思われるのでオススメはできません。

二人称は「あなた」「きみ」などが一般的ですが、パンクロックにおいては「てめえ」が標準的です。
また、高度なパンクレトリックにおいては、二人称を用いず、「オイ」などの間投詞で代用することも可能です。
その場合は文末に「クソッタレ」などを付けて、「オイ」が二人称の代用であることを補完的に示しましょう。
例)「オイ、こら聞こえねーのか、クソッタレ!」

三人称は「彼」「彼女」が一般的ですが、パンク的にはその時々に応じたふさわしい暴言(「クソッタレ!」「クソガキ!」など)の頭に「あの」を付けて用います。
「あのクソッタレ!」「あのクソガキ」などで、「彼」「彼女」を表現するようにしましょう。

●「人称代名詞」のまとめ

「私」「ぼく」→「オレ」
「あなた」「きみ」→「てめえ」(「オイ」)
「彼」「彼女」→「あの〜〜」(波線部には適切な暴言を用いる)

2、直接的な表現

人は何かを言葉で伝えようとする時、その言葉を選ぶものです。
自分の心情をダイレクトに相手に伝えようとせず、他のより曖昧な言葉でぼかしたりします。
それは、自分の心情をダイレクトに伝えてしまうと、卑猥なイメージを醸したり、相手を傷付けたりする恐れがあるからです。
人が人と共に生活していく上で、言葉にオブラートをかぶせる行為はとても重要なものと言えるでしょう。
ということは、言いかえればそれらの婉曲的な表現をより直接的な表現に改めるだけで、パンクらしい粗野で乱暴な言葉遣いができるということです。

具体例を挙げましょう。
たとえば「愛」や「恋」などのテーマは多くのポップミュージックで好んで取り上げられるテーマであり、これらラブソングでは様々な愛の表現が試みられていますが、しかし、それら数多の表現技法は結局のところどれもオブラートの一形態に過ぎません。
これらは、より簡潔で直接的な表現に改めることができます。

つまり、

×「キミが好きだ」
○「一発やらせろ」

と、いうことです。
似たような例として、他にも以下のようなケースを挙げることができます。

×「抱きしめて」
○「一発やらせろ」

×「キミと繋がっていたい」
○「一発やらせろ」

×「いますぐKISS ME」
○「いますぐやらせろ」

どうでしょうか。
ラブソングにおいて用いられている表現をより直接的な表現に改めただけで、ぐっとパンクらしいリリックに変わったことがお分かりかと思います。

また、ラブソング以外のケースでも婉曲的な表現を良く見かけますが、これらも全て、より直感的で直接的な言葉に改めましょう。

×「拳を固めろ」
○「ブチ殺すぞてめえ」

×「届かない、僕の声」
○「聞こえねーのかクソッタレ!」

●「直接的な表現」のまとめ
「ラブソング中の愛の表現全て」→「やらせろ」


3、命令形

命令形はリリックを粗野で乱暴なものにする効果的な表現方法です。
自分が相手に対し命令ができるような立場・状況でなくても、あえて命令形を使うことにより、「何でお前に命令されなきゃならんのだ」と、相手を腹立たしい気持ちにすることができます。
ですから、リリックの中では可能な限り命令形を使うようにしたいものです。

リリックを命令形にするには「〜〜してほしい」を「〜〜しろ」と改めることが簡単ですが、それだけでは片手落ちです。
「〜〜しないでほしい」を「〜〜(逆のことを)しろ」と変換できることにも注意しなければなりません。

×「忘れないでほしい」
○「覚えとけタコどもー」

どうでしょうか。
文意自体は全く変わりませんが、下の方が遥かに腹立たしく、パンク的に聞こえませんでしょうか。
「〜〜してほしい」を「〜〜しろ」と改めることは容易で、これは誰も見落としたりしませんが、逆の「〜〜しないでほしい」を変換させるのは見落としやすいポイントなので注意が必要です。
この変換を見落としているようでは、それだけでファッションパンク確定です。
メンバー全員で歌詞のチェックをするなどして、ミスを事前に防ぐよう努力しましょう。

●「命令形」のまとめ
「〜〜してほしい」→「〜〜しろ」
「〜〜しないでほしい」→「〜〜(逆のことを)しろ」


4、FUCK!

FUCK!とはパンクを代表する象徴的な暴言です。
とりあえずFUCK!さえ多用しておけば、ある程度は卑猥で破壊的なパンクらしいイメージを醸すことができます。
FUCK!の使用率が高ければ高いほどパンク的である、と言ってしまってよいでしょう。

例えば、セックス・ピストルズの名曲『BODIES』には、多いところで4小節のうち5回もFUCK!というワードが使われています。
私たちのような凡夫には、これほど見事にFUCK!を連呼することはできませんが、しかし、理想としては1小節につき1回はFUCK!というように心掛けたいものです。
では、どうすればあなたの歌詞の中のFUCK!の数を増やすことができるでしょうか。

FUCK!を出来る限り多く使うための具体的な方法ですが、まず不快さを現す全ての語彙をFUCK!に置き換えてみましょう。
遺憾であるとか、不愉快だとか、気に障るとか、納得いかないとか、そのような表現を全てFUCK!に置き換えてみるのです。
これはパンク作詞法の基礎的な技術であり、これを怠っているようでは全くお話にもなりません。
FUCK!と置き換えられる言葉がありながら、それをそのまま使っているようではファッションパンク呼ばわりされても仕方がないでしょう。

不快を現す表現を全てFUCK!に変えることができたでしょうか。
しかし、残念ながら、それだけではまだ理想的な数のFUCK!には達していないことと思われます。
そこで、中学英語を思い出してみましょう。
FUCKは動詞ですが、ingを付け、現在分詞形つまり日本語でいう連体形にすることで、形容詞的に使用することができます。また、現在分詞形は能動的意味が付与されており意見や判断を表しますので、「俺がそう判断している」という独断的なニュアンスも出て大変パンクです。
では、fuckingを全ての名詞の前に付けてみましょう。
このテクニックを用いるだけで、あなたのリリック中のFUCK!の数を飛躍的に増やすことができます。

例)
This is a pen → This is a fucking pen
Let's go to library → Let's go to fucking library

There is an apple on the tabel → There is a fucking apple on the fucking table

また、FUCK!は不快さを現すだけに用途を限定する必要はありません。
パンクにおいてはFUCK!はほぼ全ての間投詞の代わりとして用いることも可能です。
「あのう」「えへへ」「はくしょん」「ほお!」「ほら」「うん」「わあい」など、全てFUCK!で置き換えられます。
このように語調を整えたり、また話題を変える前などにアクセントとして用いたりと、FUCK!は便利に使うことができます。

パンク作詞法に慣れて余裕が出てきたら、FUCK!の他にもSHIT!やKISS MY ASSなども使用するとパンク表現に幅が広がります。
日本語も使いたい、という場合はクソッタレー!などを使うのが無難なところです。
ただし、先にも述べたとおり、遺憾である、納得いかない、などそのような表現を使ってしまうとファッションパンクと目されてしまいます。
それらのワードのどこまでがパンクであり、どこからがファションパンクなのか、その明確な線引きはありませんので、不安な方はやはりFUCK!だけ使っておけば安心でしょう。
こんなところで冒険をする必要はありませんし、時には石橋を叩いて渡ることも、正しいパンクロッカーの取るべき姿です。

●「FUCK!」のまとめ
「不快さを表す表現全て」→「FUCK!」
「名詞」→「fucking+(名詞)」
「全ての間投詞」→「FUCK!」


5、方言

以前にも触れたことですが、ピストルズのボーカル、ジョニー・ロットンはロンドンの下品な訛りであるコックニー訛りで歌っていました。

イギリスという国は実は大変な階級社会です。
上流階級・中流階級・労働者階級の区分けは極めて厳密であり、階級間の移動はほとんどありません。
そして、各人が属しているCLASS(階級)はその人の職業や、読んでいる新聞、住んでいるエリア、家の作りなどから判断できてしまうのです。

CLASSが違えば方言も違います。
CLASSごとに住んでいるエリアが違うのですから、方言が違ってくることも想像に難くないですよね。
このCLASSごとの方言の違いですが、これはCLASSが違えば、言葉が通じないほどに大きな違いだといわれています。
そして、ロットンが使用していたコックニー訛りは、主にイーストエンドに暮らす人々、どちらかというとロンドンでも貧しい人々(労働者階級)が話す訛りとして認識されていました。
つまり、ロットンがコックニー訛りを使って歌ったことは、自分たちが労働者階級である、という主張でもあったのです。

ロットンは決して物珍しさから変わった発音や歌いまわしをしていたのではありません。
コックニー訛りを使うということが、自分たちの境遇や社会への不満を訴える効果的な手段となりえたのです。
私たちは彼らがコックニー訛りを使っていた、そのことの本質を見失ってはいけません。

では、私たちが用いるべき方言とは何でしょうか。
日本全国にも様々な方言がありますが、ここで私が推奨するのは江戸弁です。
もともとコックニー訛りとはロンドンの下町言葉です。
東京の下町言葉である江戸弁がそれと同じポジションであることもご理解頂けるでしょう。
また、コックニー訛りが労働者階級の方言であるように、江戸弁も庶民の方言でした。
江戸弁とコックニー訛りは、実は極めて親和性が高いのです。
ですから、私たちが日本語でパンクロックを歌う際には江戸弁を用いれば良いのです。

具体的な江戸弁の用法ですが、最も知られているのが、「ひ」を「し」に変換することです。
「左(ひだり)」を「しだり」と発音するだけで、どこの誰であっても記号的に「ああ、こいつは江戸弁を使っているな」と認識してくれます。
逆にいえば、江戸弁など皆これくらいしか知りません。
大切なことは「自分たちは江戸弁を使っている(=庶民階級である)」とアピールすることですから、正確な江戸弁を用いる必要はありません。
ただ機械的に「ひ」を「し」に変換すれば十分です。

また、現在では単に「乱暴な言葉遣い」としか認識されていない、「接頭語の多用」「長音化」なども江戸弁の特徴です。
具体的には「ぶっ殺す」(接頭語の多用)「てめー」(長音化)などがそうです。
ここからも、やはり江戸弁はパンクに相応しい方言といえるでしょう。

ここで私は江戸弁を推奨しましたが、もちろん同じようなポジションにある方言であれば他のものを用いても構いません。
ただし、どのような方言でも良いという訳でもありません。
例えば東北の方言など使ってしまえば、吉幾三のフォロワーと間違えられる恐れがあります。
どの方言を用いれば良いか分からない、自信がない、という人はやはり無難に江戸弁を用いることをお勧めします。

●方言のまとめ
江戸弁を用いる(「ひ」→「し」)


以上、パンクに相応しい乱暴な言葉遣いを用いるための5つの規則を挙げました。
これらを習熟し、自分のリリックに応用するだけでも、あなたのリリックは見違えるほど乱暴でパンクなものとなるでしょう。
より乱暴な言葉遣いをするために他に学ぶべきルールは幾つもありますが、初心者のうちは無理をせず、とりあえずこれだけの技術をしっかりとマスターしましょう。

・皇室を批判しよう

パンクロッカーが必ず謳いあげなければならないこと、それが皇室批判です。
パンクミュージックがもともと貧しい労働者階級のムーブメントであることはこれまでに何度も繰り返してきました。
また、イギリスが階級社会であることも前項にて説明いたしました。
その厳しい階級社会において、底辺である労働者階級の人々が、いわば最上位であるロイヤル・ファミリーに対し、あまり良い感情を抱いていないことは想像に難くありません。
だからこそ、ピストルズも「GOD SAVE THE QUEEN」を歌い、女王・王室を激しく批判したのです。
閉塞したイギリス階級社会にピストルズは大きな風穴を空けたのです。

ピストルズのこれらの業績を見るにつけても、現代に生きる私たちが彼らの精神的伝統を引き継ぎ、皇室批判をしなければならないというのは自明の理でしょう。
確かに、日本は英国ほど厳しい階級社会ではありませんし、皇室に対する悪感情も英国ほど激しくはありません。
実際、多くの日本人にとっては、皇室は別に好きでも嫌いでもない存在だと思います。
ですが、そのようなことを言っていてはいけないのです!
私たちはパンクロッカーである限り、別に嫌いでなくとも皇室を批判しなければならないのです。
それが全てのパンクロッカーに課せられた義務だからです!
心を鬼にして皇室を批判しましょう。
「嫌いでもない人のことを悪くいえないなあ」などと言っているようではファッションパンクです。

というわけで、私たちは嫌が応でも皇室を批判しなければならないのですが、ここで注意したいのが我が日本には皇室が大好きな人たちがいるということです。
私たちは義務ですから絶対に皇室を批判しなければなりませんが、しかし大好きな人たちの気分を害することだけは絶対に避けましょう。悪いことは言わないから避けときましょう。
彼らの気分を害さないためにも、とりあえず明治以降の皇室に対する批判はやめておきましょう。
たぶん明治以前なら大丈夫と思いますが、余裕をもって江戸期以前にしておくのが無難です。

しかし、いくら皇室批判が義務とは言え、皇室に対して別に批判もないしどんなことを言えばいいのか分からないなあ、という方も多いでしょう。
そのような方のために、実践的な皇室批判のポイントを以下に幾つかご紹介いたします。
とりあえず初心者のうちは以下の批判ポイントを押さえておき、コツがつかめてきたら独自の皇室批判に歩を進めれば良いでしょう。

●神武天皇(在位期間:前660年1月1日 〜 前585年3月11日)

神武天皇は初代の天皇です。
神武東征神話にて有名な人物で、神話によれば遠征において道に迷った神武天皇は天上から遣わされた霊鳥「八咫烏(ヤタガラス)」に導かれ、無事に山越えを果たしたといいます。
神武天皇はいわば神と人の中間に位置する存在であり、戦前までこの神武東征伝承は史実とされていましたが、戦後は神武天皇の存在そのものが疑われています。

上記の説明は神武天皇のエピソードのほんのごく一部に過ぎませんが、これだけでも何点か批判ポイントを見つけることができると思います。
まず、神武天皇が遠征において道に迷った、という記述に注目しましょう。
ここから私たちは「やーい、方向オンチー!」と神武天皇を批判することができます。
また、神武天皇の存在が神話的なものではないか、実在しないのではないか、と疑われていることから「存在感薄いんだよ!」などと批判することも可能です。

ただし、神武天皇については留意しなければならない点があります。
それは神武天皇が戦前・戦中においては軍神として扱われ、軍国主義の精神的な支柱とされていたことです。
そのため、今日でも神武天皇と聞くと過去の戦争の悲惨なイメージを喚起してしまう人もいるのです。
そういった方々の心情もしっかりと踏まえた上で、注意深く神武天皇を批判するよう気をつけましょう。

●応神天皇(在位期間:270年1月1日 〜 310年2月15日)

応神天皇は15代の天皇です。
神功皇后の胎中で新羅に遠征したことから、胎中天皇(はらのうちにましますすめらみこと)との別称もあります。
応神天皇の御代には、渡来人など大陸からの文化・学問が多く流入してきました。
伝説では、その治世において、近畿から西日本一帯の海の民、山の民をことごとく平定した優れた王として描かれています。
また、八幡神社の祭神でもあり、源氏の氏神、国家鎮護の神でもあります。
いわゆる"神風"はこの八幡神の神威によるものとされます。

このように、『古事記』や『日本書記』に見られる応神天皇は偉大な天皇として描かれていますが、その一方で民間伝承である『播磨国風土記』を見ますと、また違った応神天皇の一面を見ることができます。
例えば、馬が逃げていくのを見て、「あれ誰の馬?」と訊いたら、部下から「あなたのですよ」と言われたり、「あれは海?河?」と部下に訊いたら「何いってんですか、霧ですよ」と返され、「いや、大体は分かってたけど、細かいところは見えないし」と言い訳したなどのエピソードが綴られています。
私たちはこれらの記述から「やーい、天然ー」などと批判することができるかもしれません。

●後醍醐天皇(在位期間: 1318年2月26日〜1336年8月15日)

先の神武天皇、応神天皇批判を行うには古典文献の渉猟など多大な努力が必要となりますが、その一方で何の努力も払うことなく簡単気軽に批判できる天皇もいます。
それが後醍醐天皇です。

後醍醐天皇は96代の天皇であり、二度の倒幕計画に失敗し隠岐に流されますが、隠岐を脱した後、親政を行います。
親政は非現実的な政策により3年で崩壊し、後醍醐天皇は吉野へ逃れ南朝を建てます。
が、それらの歴史的知識など、後醍醐天皇批判をするには全く無用の長物です。
そう、私たちはただ彼が「ゴダイゴ」であるだけで十分な批判を行うことができるのです。

「ゴダイゴはニューミュージックだ、パンクじゃねえ!」
「このモンキーマジックが!」

など、好きなように批判を加えましょう。
ところで、全くの蛇足ではありますが、後醍醐天皇が吉野へ逃れたことと、ゴダイゴのリーダーがミッキー吉野であることはあまりにもできすぎた偶然であるように、私には思われます。

・宗教の悪口を言おう

「皇室を批判しよう」にて、パンクにおいて皇室批判は必ず謳いあげなければならない必須テーマであることを説明しましたが、パンクにはもう一つ必ず取り上げなければならないテーマがあります。
それが宗教です。
セックス・ピストルズは「ANARCHY IN THE UK」にて「オレはアンチ・クライスト」と叫びました。
キリスト教文化が二千年の長きに渡り支配し続けた欧米社会において、反キリスト教を標榜することは極めてショッキングな主張だったのです。
これに倣い、私たちもどうしても宗教の悪口を言わなければなりません。
自分たちが反宗教であることをどうしても叫ばなければならないのです。

ですが、大変不幸なことに、私たちの国日本には欧米におけるキリスト教のような支配的な宗教はありません。
確かに、葬儀に関しては多くが仏葬ですが、私たちが葬式以外で仏教徒であることを自覚することはほとんどありません。
また、日本人のほとんどは氏子ですので、ほとんどの日本人は神道を信仰していることに(データの上では)なっていますが、実際の日本人の氏子意識など、欧米でのキリスト教徒の意識とは比べるまでもありません。
日本人は、正月には神社へお参りし、葬式は仏教式に行い、クリスマスにはケーキを食べるように、節操なく多様な宗教活動を行いますが、その際でも自分たちが宗教活動を行っているのだという意識は伴っていないのです。
このような我が国では、特定の宗教にアンチの姿勢を示したからといって、さほどショッキングな主張とはなりえないことをご承知頂けるかと思います。

上記のように、日本においては特定宗教の悪口をいうことにはあまり意味がないのです。
この点では日本はパンクをするのに比較的不向きな国であるといえるでしょう。
ですが、悲観することはありません。
キリスト教のように強い力を持つ神がいないということは、逆にいえばそれほど力の強くない神が日本にはたくさんいるということです。
私たちはそれらの神々のうちから、自分がもっとも批判しやすい、言ってしまえば「自分がいちばんお世話になっている」神の悪口を言えば良いのです。

では、あなたの身近にいる、あなたが普段お世話になっている神にはどのような神がいるでしょう。
それは人それぞれ、趣味や職業により千差万別です。
一例を挙げますと、たとえばもしあなたがサラリーマンであれば、「ビジネスの神様」と呼ばれた松下幸之助や大前研一などが悪口の対象となりえます。
あなたが受験生であれば、「受験の神様」である和田秀樹、出口汪や細野真宏などの悪口を言えば良いのです。(受験の神様は幾柱もおられますので、自分の信奉する神の悪口を言いましょう)

もちろん上記の人たちはあなたが神様と崇めている人たちですから、そういった人たちの悪口を言うことは大変なことだとは思います。
しかし、義務ですから仕方がありません。心を鬼にして彼らの悪口を言いましょう。

以下に、あなたの趣味や職業にあわせた神様の一例を挙げますので、悪口を言う際の参考にしてください。


麻雀の神様 阿佐田哲也
競馬の神様 大川慶次郎
パチンコの神様 正村竹一
野球の神様 川上哲治
ゴルフの神様 林由郎
映画の神様 小津安二郎
柔道の神様 三船久蔵
空手の神様 大山倍達
漫画の神様 手塚治虫
ロマンスの神様 広瀬香美
笑いの神様 田代まさし



・音楽理論って必要?

結論から言うと、必要です。
いくらパンクミュージックとはいえ、音楽理論に対し完全に無知なまま作曲できるほど音楽は甘いものではありません。
あなたが他のパンクミュージックを聴いて、パンクらしい良い曲だな、と思うことができるのは、その曲が音楽理論という名の様々な約束事を前提に計算して作られているからに他なりません。
ちゃんとしたパンクミュージックを作るためには、最低限の音楽理論は必要になってくるのです。

とはいっても、それほど恐れることもありません。
他の音楽とは異なり、パンクとは広く門戸の開かれた初心者に優しい音楽なのですから。
必要となる音楽理論も他の音楽ジャンルに比べればごくごく僅かで済むのです。

例えば通常であれば、作曲をするためには、音程、つまりドレミから始めてコード、スケールと学んでいかなければなりません。
これらは自然な流れのメロディーを作るためには必要なことなのです。
しかし、そのような理論は知らなくともパンクミュージックであれば、ごく簡単に自然な作曲をすることができるのです。

音楽を構成する要素は、簡単にいいますと
  • リズム
  • ハーモニー
  • メロディー
この3つです。
これら3つはとても大切な要素で、これらのうちどれか一つでもパンクらしからぬものであれば、その曲はパンクミュージックに相応しいものとは成りえないのです。
それでは、パンクミュージックを作るにあたり、これら3要素の注意すべきポイントを解説致します。

1、リズム

パンクミュージックを作る際には、リズムは必ず四拍子に固定しましょう。
拍子なんて訳がわからねえぜ、というのがパンクロッカーとしては当然の反応でしょうが、しかし、拍子だけはなんとかマスターして常に四拍子を保てるよう努力しなければなりません。
なぜなら、それらの努力を怠れば、うっかり三拍子になったり五拍子になったりしがちだからです。
このように四拍子とそれ以外の拍子を曲中で使用することを専門用語で「変拍子」と言いますが、曲中に変拍子があれば、それだけでプログレッシブ・ロックと勘違いされる恐れがあるのです。
プログレッシブ・ロックと勘違いされることは大変危険なことです。
ご存知の通り、ピストルズのボーカルであるジョニー・ロットンは「オレはピンク・フロイドが大嫌い」と書かれたTシャツを着て街を練り歩いていたほどのプログレ嫌いです。
ですから、パンクバンドにとってプログレと間違われることほど悲惨なことはありません。
あなたたちのファンも、曲の中に変拍子がないか、ライブ中常に聞き耳をたてています。
決して隙を見せてはいけません。
細心の注意を払って四拍子に固定することがパンク作曲法の大前提です。

2、ハーモニー

ハーモニーとは音と音の響きのことです。
ポピュラーミュージックにおいては、耳障りの良い響きを作り出すために、これを調和の取れたものにしなければなりません。
「じゃあどうしたら調和が取れるの?」と思ったあなたはファッションパンクです。
そんなことは別に知らなくて構いません。
パンクミュージックにおいては、何も考えず、ただコードを弾いておけばOKです。

しかし、パンク音楽理論においては、このコードが重要なのです。
コードというものは極めて多くの種類がありますが、それらを好き勝手縦横無尽に使ってはいけないのです。
何故ならパンクは3コードという不文律が歴として存在しているからです。
うっかり複雑なコード展開などしてしまった日には、周りからファッションパンクと呼ばれてしまうでしょう。
パンクはシンプルに3コードが基本です。
コードについては次項「曲を作ろう」にて、もう少し詳しく説明致します。

なお、いかにあなたが生粋のパンクロッカーであり、コードを覚えることが面倒で面倒で面倒で仕方なかったとしても、3つだけで良いですから必ずコードを覚えるようにしてください。
コードを全く覚えずに作曲に臨むのは、あまりに危険過ぎます。
何故なら、コードを全く用いずに作曲を行うとアートリンゼイのフォロワーと見なされ、前衛芸術と勘違いされる恐れがあるからです。

3、メロディー

パンクミュージックにおいて、実際にメロディーを作れる可能性があるパートはボーカルだけです。
ギターはコードしか弾きませんし、ドラムは適当にドコドコ叩いているだけですし、ベースに至ってはそもそも弾く気がないからです。
一般的にパンクロッカーは鼻歌でメロディーを作ります。
このときに大切なのが、決してコード進行などを考慮に入れないことです。
あくまで自分が思った通り、歌いたいように好きに歌いましょう。
コード進行との調和を図った時点でファッションパンクです。
コードとの調和を図らないことがパンク音楽理論なのです。

なお、オレはただ自分の怒りを叫びたいだけだ、メロディーなんて邪魔くさいぜ、と思う方も多いと思います。
その気持ちは大変良く分かりますが、しかし、あやふやでも適当でもいいですから、少しだけでもメロディーを付けるようにしましょう。
何故なら、まったくメロディーがなければデスメタルになってしまう恐れがあるからです。


最後に、これら3要素とは別に、絶対に気を付けるべき音楽理論について触れておきます。
それはパンクミュージックでは一曲の曲の長さを必ず3分以内に収めなければならないということです。
一曲が長いと、まずプログレと決めつけられる恐れがあります。
運良くプログレのレッテルを回避したとしても、体力のないパンクロッカーに3分以上も継続して演奏が行えるわけがありません。
必ず、へこたれて演奏が止まってしまいます。
ここで演奏が止まってしまうと、さらに恐るべき嫌疑がかけられてしまうのです。
そう、無音の前衛芸術家ジョン・ケイジのフォロワーではないかと疑われてしまうのです。
曲を3分以上にしただけで、あなたはプログレか前衛芸術家か、どちらにしろとんでもない疑いをかけられてしまうのです。
曲の長さは必ず3分以内に収めるようにしましょう。


これらの音楽理論を見てもお分かりのとおり、パンクミュージックとは一見ずぼらなように見えて、その実、大変デリケートな音楽なのです。
少しでも行きすぎてしまえばすぐに他のジャンルの音楽と勘違いされてしまいます。
自分たちはただ演奏が稚拙なだけであり、決して意図して斬新な効果を狙っているのではない、ということをアピールするよう気を付けましょう。

・曲を作ろう

前項にて、パンクミュージックを作るのに必要な音楽理論はご理解頂けたことと思います。
では、実際にそれらの音楽理論を使って曲を作ることを考えてみましょう。
なお、曲を作るのは基本的にギターの仕事です。
何故ならコードを把握しているのはギターだけだからです。

さて、具体的な作曲法を解説いたしましょう。
あなたは3つのコードを知っているはずですよね。
その3つのコードで曲を作ります。
別に難しいことではありません。極めて単純なことです。
その3つのコードを並び替えて曲を作れば良いのです。

例えば、あなたの知っているコードが、A、C、Dだとしましょう。
その場合、コードを並び替えるパターンは簡単な順列の計算で求めることができます。

ご存知の通り、順列の一般的な式は



となりますから、「 n 個(3)のものを r 個(1〜3)だけ取り出して、順番を決めて並べる場合」は

3P1=3!/(3-1)!=3

3P2=3!/(3-2)!=3(3-1)=6

nPn=n!のため

3P3=3!=3*2*1=6

となり、3+6+6=15

A、C、Dを並びかえるパターンは15通りということが分かります。

具体的には

A/C/D
AC/AD/CA/CD/DA/DC
ACD/ADC/CAD/CDA/DAC/DCA

の15通りです。

あなたは、これら15通りのパターンから任意のものを選び、曲の構成にあてはめるだけで良いのです。
例えばピストルズの代表曲の一つ「ANARCHY IN THE UK」の構成は

Aメロ→サビ→Aメロ→サビ→Aメロ→サビ→Aメロ→サビ→サビ→サビ→サビ

となっています。
ここでは、例えばAメロに「AC」、サビに「DAC」というコード展開を当ててみるとします。
すると、

AC→DAC→AC→DAC→AC→DAC→AC→DAC→DAC→DAC→DAC

もう一曲できてしまいました!
ここではAメロを「AC」、サビを「DAC」としましたが、これをAメロを「DC」、サビを「ADC」に変えれば、また一曲作れます。
Aメロを「CA」、サビを「CAD」に変えればまた一曲です。
このようにしていくだけで、一つの構成、3つのコードから、なんと210曲もの曲を作ることができるのです。
(なお、計算式は次のようになります : 15P2=15!/(15-2)!=15(15-1)=15*14=210 )
さらに構成を「ANARCHY IN THE UK」からBメロ、大サビが加わる「GOD SAVE THE QUEEN」に変えれば、これの156倍の32760曲が作曲可能となります。
この数字は、35年の生涯で600曲以上もの作曲をしたといわれるモーツァルトの実に50倍にも及ぶ数字です。
私たちパンクロッカーは簡単な音楽理論を学ぶだけで、いとも簡単に西洋音楽の巨人をも超えることができるのです。

このように、作曲というものはパンクミュージックにおいては一般にイメージされているほど難しいものではないのです。
音楽理論さえキッチリとマスターしておけば、パンクミュージックなど幾らでも簡単に作ることができるのですから。
なお、作曲の際には実際にギターを弾きながら曲の展開を試行錯誤するなど、そのような行為は一切必要ありません。
そのようなことをしても、どうせ曲の完成度など誰も期待してはいませんし、下手にギターを手に試行錯誤などしているとギターが巧くなってしまう恐れもあります。
作曲は紙とペンだけをもって行うようにしましょう。

・編曲をしよう

曲は問題なく作れたでしょうか。
曲ができたなら、今度はメンバー全員でその曲を編曲しましょう。
編曲とは、ある楽曲をその曲本来の編成から他の演奏形態に適するように書き改めることです。
つまり、ギタリストが作ってきた曲はギターに依拠した物ですから、その曲をベースはどう弾くのか、ドラムはどう叩くのか、ボーカルはどのような歌を乗せるのか、それを各々が考えるのです。
よくCDのクレジットを見ますと、作曲はメンバーの名前、編曲はバンドの名前、となっていますが、これは作曲はメンバーのうちの誰かが行い、その曲を元に他全員のメンバーがどう演奏するかを各自考えたということなのです。

では、パンクバンドにおける編曲はどうなるのでしょうか。
パンクロッカーには基本的に協調性というものがありません。
ギターが作ってきた曲に合わせようなどとは誰も考えないでしょう。
つまり、ドラムはどんな曲であろうと好き勝手にドンドコ叩くだけ、ボーカルはどんな曲であろうと好きなメロディーで勝手に歌うだけです。
ベースに至っては、そもそも弾く気がありません。

それでは曲としてのまとまりに欠けるじゃないか、聴いていて気持ちの良い曲にならないじゃないか、などと思った方はファッションパンクです。
これは編曲上の失敗ではありません。
これこそがまさに正しいパンク編曲法なのです。
このような編曲を行うことで、パンクらしいシンプルでラウドなサウンド作りが可能になるのです。

また、各人が好き勝手に演奏できるということは、言い換えれば練習する必要がない、正しい演奏を覚える必要がない、ということでもあります。
全員が足並み揃え、まとまりのある楽曲を演奏しようとすれば、どうしても正しい演奏を覚え、それを正確に演奏できるよう練習しなければなりません。
言うまでもないことですが、パンクロッカーに反復練習などできるはずがありませんし、そのようなことをしていてはファッションパンクです。
各人が好き勝手に演奏することが、パンクにおける最も正しい編曲法なのです。

しかし、いくら好き勝手に演奏して良いといっても、曲がどこで終わるのかだけは合わせるようにしましょう。
終わるタイミングが分からず、ベースだけ、ドラムだけ演奏を続けているような状態になりますと、ベースソロやドラムソロと勘違いされる恐れがあるからです。

トップページに戻ります