STEP8 「私生活にも気を配ろう」



前項STEP7までで、パンクミュージックを行う上で必要な知識は全て網羅できたと思いますが、しかし、何度も繰り返し述べている通り、パンクとは単なる音楽のいちジャンルではないのです。
本当のパンクロッカーとなるためには、それら音楽に関わらない、日常生活の一片一片までもパンクライズしなければなりません。
STEP8では、パンクロッカーが日常生活において気を付けるべき事柄を説明します。

・ちゃんとお金を稼ごう

パンクロッカーといえども人間です。
当然ですが、生きていくためには人はお金が必要となります。
パンクロッカーも何とかして生活を成り立たせるだけの最低限のお金を稼ぐ必要があります。

では、パンクロッカーがお金を稼ぐ最適な方法とは何でしょう。
まず思いつくのはヒモです。
ヒモとは、交際している女性に経済的に依存し、自分は働かずして食べていく方法です。
これは十数年ほど前まではパンクロッカーの生活手段としては、大変魅力的なものとされていました。
労働という自活手段の放棄に加え、愛情というあやふやな物に依存して生命を繋ぐ様が、大変危なっかしくパンク的だったからです。
また、女性に経済的に依存する姿は、世間から鼻つまみ者・落伍者として扱われるというメリットもありました。

しかし、残念ながら、昨今ではそのような風潮は薄れつつあります。
それは一つにはジェンダーに関する、より積極的な認識が社会に広まってきたためです。
日本でも90年代から伊藤公雄氏がさきがけとなって男性学運動が始まり、必ずしも仕事が男性の生きがいであり、唯一の自己実現ではないという認識が徐々に浸透しつつあります。
つまり現代では、専業主夫というあり方も決して一概に否定されるものではないと、考えられ始めているのです。
あなたは、ただパンクロッカーとしてヒモという生活手段を選択したつもりかもしれませんが、世間からはジェンダーフリー思想の最先端を行くものとして捉えられてしまう危険性があるのです。
そのような誤解を避けるためにも、真に残念ながら、ヒモという選択肢は放棄するべきでしょう。
全く、困った世の中になったものです。

では、パンクロッカーが実践すべき有効な生活手段とは何でしょうか。
ヒモはすぐに思いつくけれどその次に来るものは何だろう…と多くの人は考え込んでしまうことでしょう。
困った時は、何事も原点に戻るべきです。
そうです、やはりここでも答えはセックス・ピストルズにあったのです!

ピストルズが活躍した1970年代当時のイギリスは、深刻な不況に喘いでいました。
当時イギリスの失業者数は200万人に達し、青年層だけでも約70万人の若者が失業状態にあったのです。
肉体労働にありつければまだマシで、多くの若者たちは失業保険で暮らしていくしかありませんでした。
そして、我らがセックス・ピストルズの面々も、そのようにして生計を立てていたというのです。
つまり、私たちも偉大な先人に倣い、失業保険により生計を立てるべきなのです。

では、失業保険を得るための具体的な方法を提示しましょう。
失業保険を得るためには、何といっても、正社員になることが最も簡単で確実な方法です。
アルバイトでも場合によっては失業保険を得ることは出来ますが、雇用保険が任意加入になることも多く、全て自分で手続きすることになると大変面倒です。
その点、正社員になれば会社側がそれらを全てあつらえてくれます。
正社員になることが、失業保険を手にする一番の近道なのです。

ですから、あなたはまず就職活動をするべきです。
もちろん、どこへ就職しても良いというわけではありません。
失業保険は就労時のサラリーの何割かが支給されますから、出来るだけサラリーの高い一流商社に就職を心掛けるべきです。
もちろん、就職の際には自分がパンクロッカーであることは伏せましょう。
一般的な会社ではパンクロッカーを好んで雇うことは、ほとんど有り得ないからです。
面接時には、パンクのパの字も知らない、マジメ一辺倒の人間であるかのように振舞うべきです。

あなたはもしかしたら、「就職なんてしていたらファッションパンクと思われるんじゃないだろうか」と心配するかもしれません。
しかし、それは全くの杞憂というものです。
失業保険を得るための就職だと言えば、「ああ、パンクだな」と誰もが納得してくれるでしょう。
いえ、むしろ就職もせずに、その日暮らしで生計を立てている人こそファッションパンクというべきです。
彼らは、正しいパンクロッカーになるために失業保険を目指す、という当然の努力を怠っているからです。
そのようなパンクロッカーとしてのあるべき態度をとらず、ただ見てくれだけを真似するファッションパンクの何と多いことでしょうか。
失業保険を得るために、計画的に就職・就労するのが本物のパンクロッカーなのです。

ですが、ここだけは忘れないよう気を付けてください。
あなたが就職をするのは、決して労働で生計を立てるためではなく、失業保険を得るための手段に過ぎないということです。
うっかりとその職場に愛着を持ったり、仕事に魅力を感じてしまえば、その時点であなたはファッションパンクです。
そうならないためにも、6ヶ月間就労した後はただちに失業するべきです。(失業保険は6ヶ月間の就労の後に失業した人に支払われます)

失業に関しても、気を付けたいポイントが2つあります。
まず1つは、自己の都合による失業(退職届など)の場合は、失業から3ヶ月間は失業保険を受け取れないということです。
3ヶ月の間に飢え死にしないように、3ヶ月分だけの貯蓄はキープしておきましょう。
もう1つは、自己の都合による退職よりも、会社の倒産や解雇などにより失業した場合の方が、給付日数などの面で手厚い待遇を受けられるということです。
このことを鑑みれば、今すぐにでも倒産しそうな会社に就職するというのも一つの手ですが、しかし6ヶ月就労する以前に倒産されてはたまったものではありませんし、そのような会社では給料の未払いが生じるかもしれません。リスキーですので、オススメはできません。
それよりも、ちゃんと安定した一流企業に就職しつつ、6ヶ月後にリストラされるよう仕向ける方が良いでしょう。
あなたはパンクロッカーですから、就職して数日もすれば顔面に酷い青痣を作ったり、酒臭い息を吐き散らしながら出社することになるでしょう。
周りの同僚・上司も、あなたがパンクロッカーであることに薄々気付き始めるはずです。
そして、「自分がパンクロッカーである」という情報を巧みに流しつつ、うまく6ヶ月後にリストラされるよう社内の風評を誘導しましょう。
初心者のうちはなかなかそれが巧くいかず、失敗して1年も2年もリストラしてもらえないこともあるかもしれません。誰でも、最初はそんなものです。
しかし、何度もトライ・アンド・エラーを繰り返していけば、あなたはいずれ、きっちり半年後にリストラされるような立派なパンクロッカーになれるはずです。
最初は辛いかもしれませんが、頑張ってください。

・健康に気をつけよう

多くのスポーツ、芸術活動がそうであるように、やはりパンクロックも身体が資本です。
しかし、他のスポーツや芸術活動が、活動の大前提・母体として健康な肉体・精神を必要とする一方、パンクの場合は、逆に不健康な肉体・精神が求められるということを見落としてはいけません。
健康な肉体・精神を有しているというだけで、ファッションパンク呼ばわりされることもあるくらいです。
心身は不健康であるに越したことはありません。
ここでは、不健康な肉体・精神を保つため、日頃から気をつけるべきポイントを解説します。

不健康な肉体・精神を保つため、全てに先立ち重視すべきポイントは「食」です。
古来より医食同源などと呼ばれるように、人間の健康と食事には明確な相関関係が見られます。
すなわち、適切な食事を適切に摂取することが健康への確実な途であり、その逆も然りというわけです。
私たちは、ここではその逆、つまり不健康な食生活とは何か、を考えなければなりません。

身体に必要な栄養素とは何でしょう。
炭水化物、たんぱく質、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、カルシウム、鉄分、ナイアシン、ビチオンetc...
必要な栄養素は数え上げるとキリがありません。
しかし、私たちは普段、それらをいちいち計算しながら食事を摂っている訳ではありません。
野菜はこれくらい、お肉はこれくらい、ごはんはこれくらい、と食材をバランス良く摂っていれば、それらの栄養もそれなりに必要なだけ摂取できるものなのです。
つまり、言い換えれば、あなたは一種類、もしくは数種類だけの食物を偏食しているだけで不健康な身体を手に入れることが出来るのです!

不健康な食生活の基礎が、偏った食事にあることは分かりました。
ですから、基本的にはあなたが一番好きなものを毎日ガツガツそればかり食べていればOKです。
それがどんな高栄養価なものでも、毎日それしか食べていなければ必ず不健康になります。
例えば、高栄養価な総合栄養食品としては蜂蜜が有名ですが、こればかり食べていれば必ず健康を害します。
蜂蜜を食べすぎて不健康になった例としては、兎の家で蜂蜜を食べすぎたばかりに肥満して穴につかえてしまった熊の寓話などが有名ですね。
どれほど高栄養価な食品であろうとそればかり食べていてはいけないのです。

偏食していれば何を食べていても身体に悪いというのは揺るぎない事実です。
ですが、これには一つ大きな問題があります。
同じ物ばかり食べていれば、いい加減、飽きるのです。
ですから、基本は偏食ですが、飽きない程度に他の身体に悪い食品を摂る必要が出てきます。

身体に悪い食品の代表といえば、すぐに思い付くのがカップラーメンとファーストフードです。
これらはジャンクフードとも呼ばれ、カロリーが高い割に栄養価が低いことが特徴です。
カロリーが高いということは、それだけでお腹が一杯になってしまうため、他の栄養価の高い食品を摂る機会が失われるという意味もあります。
また、それらジャンクフードは単価も比較的安価なため、気軽に摂取することができます。
カップラーメンやファーストフードなどを代わる代わる摂取しておけば、とりあえず安心といえるでしょう。
ただし、カップラーメンを摂取する時は、チキンラーメンに気を付けてください。
チキンラメーンは厚生省から特殊栄養食品に認定されたこともあり、何気に栄養価が高く侮れません。
チキンラーメンは避けた方が無難でしょう。
単価も高いですし。

同様にファーストフード店はモスバーガーなどではなく、マクドナルドを利用してください。
「トマトは近藤さんが作りました」だの、「レタスは山田さんが育てました」だの喧伝しているモスバーガーは健康志向すぎてパンクロッカーには不向きです。
単価も高いですし。

また、食は肉体だけでなく精神にも大きな影響を及ぼします。
不健康な精神は不健康な肉体に宿るのですから当然ですね。
具体的な話をしますと、次に挙げる栄養素が不足していれば、精神に悪影響が出ます。
  • ビタミンB1(イライラする、だるい、疲れやすいなどの症状)
  • ビタミンB12(イライラする、無気力、集中力の低下)
  • ナイアシン(神経的なイライラ)
  • ビチオン(疲労感)
  • マグネシウム(イライラする、精神の不安定)
  • カルシウム(イライラする、精神の不安定)
  • カリウム(意欲の低下)
  • バントテン酸(イライラする、倦怠感)
これらの栄養価を多く含む食品を摂取しないよう、気を付けましょう。
不足した場合の症状を見れば分かるとおり、どれもパンクロッカーにとっては重要な項目ばかりです。
むしろ、食生活に気を遣ってさえいれば、何も考えなくともパンクロッカーになれるのではないかと思うほどです。

「食」に続き、不健康な生活のために大切なファクターが「睡眠」です。
一般に成人に必要な睡眠時間は7〜8時間と言われています。
この睡眠時間が足りなければ、疲れやすい、頭が重い、集中力がない、ストレスがたまるなど、パンクロッカーにとって好都合この上ない悪影響が生じます。
これらの悪影響は間違いなく自分のものとしておきたいところです。

しかし、パンクロッカーの途のなんと険しいことでしょう。
「睡眠」も「食」と同様、一筋縄ではいきません。
ここにもやはり大きな問題があるのです。
そう、パンクロッカーは基本的に自堕落なので、寝過ぎることはあっても、早起きすることなどありえないのです。
ああ、なんというジレンマでしょう。
睡眠時間を減らすために早起きすれば、「そんな自制心があるやつはファッションパンクだ」と蔑まれますし、かといって好きなだけ眠りこけていれば、起きたときはスッキリ爽快な気分になってしまいます。
昔から、この難しい問題に多くのパンクロッカーが真剣に取り組み、様々な研究を行ってきました。
そして、それら先人の功績により、今では「睡眠」に関する具体的な解決案が提示されています。

このジレンマを解決する起死回生の策、それは「睡眠障害」です。

睡眠障害というのは、「寝ようとしても良く寝られない」という障害の総称です。
この場合特に重要なのが、睡眠時間は長いのに「ぐっすり眠った」という満足感が得られない「熟眠障害」です。
熟眠障害を上手く利用すれば、あなたは本能のおもむくまま好きなだけ惰眠を貪りつつも、睡眠不足の悪影響をこうむる事ができるのです。

熟眠障害に至るには、様々な原因があります。
心配事やストレスなどの精神的原因でも熟眠障害になることはありますが、しかし、より現実的な方法として、パンクロッカーの間では「夜更かし」「酒」「夜食」が推奨されています。
夜更かしをすれば生活リズムが乱れぐっすりと眠れなくなりますし、お酒を呑むと眠りが妨げられます。寝る前に摂る食事も眠りを浅くします。
この3点を確実に押さえておくだけでも、熟眠障害にかなり近づくことが出来るでしょう。

他にも、補完的に以下のような手法も提唱されています。
「不規則な音が耳に入る」「室内が明るすぎる」「手足が冷えてる」、これらも熟睡を妨げる要因となります。
また、「ベッドや枕が自分に合わない」というのも熟睡を妨げる原因ですから、できるだけゴツゴツした寝心地の悪い就寝具を使うことも肝要です。
思い切ってベッドや布団で寝ることを放棄してもいいですね。
自室で布団も敷かずにゴミに埋もれるようにして眠れば、かなり熟睡を妨げられるでしょう。

それらの具体案を踏まえた上で、多くのパンクロッカーは以下のような生活サイクルを提唱しています。これらを実践することで、睡眠に関する問題を解決することができるでしょう。

まず、あなたは繁華街(屋外が望ましい)で飲んだくれます。酒は眠りを浅くするからです。
次に、酔った勢いでケンカしてぶっ倒れます。
このとき、殴られたあなたは「ムカつくぜ、クソッタレー!」と強く思いながら気絶すべきです。ストレスも熟睡を妨げてくれるからです。
また、屋外でぶっ倒れて眠るわけですから、当然寒いです。手足が冷えます。手足の冷えが熟睡を妨げることも前記の通りです。
さらに、ケンカでぶっ倒れる場所は街灯の真下で、かつ線路に近い場所が良いでしょう。
街灯は寝るには明るすぎるし、電車が通るたびに不規則な大音量が耳に入るからです。
当然、堅いアスファルトの路上でぶっ倒れるわけですから、ベッドや布団と違い、寝苦しいことこの上ないです。
ここまでやれば間違いなく眠りは浅くなるでしょう。

ですが、上記のような睡眠法は理想的ではありますが、毎日これを繰り返していてはとても身体が持ちません。
特に冬は凍死の可能性もあります。
これらの理想的睡眠法が実践できないときに自室でどのような環境を整えるべきか、それはいまだパンクロッカー個々人の創意工夫が求められるところです。

「食」と「睡眠」に気を付けるだけでも、あなたは十分に不健康な生活を送れる、ということをご理解いただけたでしょうか。
さらに一歩進んだ不健康生活テクニックとして、「酒」や「たばこ」を適切に用いることも、有効とされています。
それらはとても大切なことですので、以下に、項を分けて説明いたします。

・お酒を呑もう

不健康な肉体を保つためにお酒を用いるのは、古来より良く知られた手法です。
ですが、酒には恐るべき落とし穴が潜んでおり、用法を間違えて摂取しますと、取り返しのつかない事態を招いてしまいます。
適切な飲酒法は、酒を飲むうえで絶対に熟知しておくべきことです。

酒に潜む、恐るべき落とし穴。
それは、「酒は百薬の長」ということです。
多くの人が思い違いしていることですが、酒は単にストレス解消という意味から「百薬の長」などと呼ばれているわけではありません(もちろん、ストレス解消も大きな理由なのですが)。
実は適量の飲酒には、動脈硬化の予防、血栓症の予防効果などがあり、毎日適度の飲酒を続けていれば死亡率が約50%低下するというデータが出ているのです。
適度な飲酒は健康を害するどころか、多いに健康に寄与してしまうのです。

では、適度な飲酒量とはどの程度でしょうか。
それは日本酒に換算して、大体1〜2合程度といわれています。
大き目の湯呑で2、3杯といったところでしょうか。
つまり、それだけ呑んだだけでは、酒はかえって身体に良い結果に終わってしまうのです。
不健康な身体を得るためには、少なくともその倍の量の飲酒を心掛けなければなりません。

しかし、酒というのは飲める人は飲めますが、飲めない人は全く飲めないものです。
酒を飲めない人が「でもパンクロッカーだからお酒飲まなきゃ」と無理して飲むことはオススメできません。
そのような人は多量の飲酒をすることが不可能であり、1、2杯飲んだところでギブアップしてしまうと、逆に健康になってしまうからです。
中途半端は良くありません。
飲むと決めたら、5合、6合、べろんべろんの前後不覚に陥るまで飲みましょう。
水の代わりに飲むなど、日常的に飲酒を習慣付ける努力も必要です。

また、酒は飲めば間違いなく肝臓に負担を与えることができます。
そのためには、脂の少ない肉、魚、豆腐など、肝臓に優しい肴を摂りながら飲むことは避け、油ギトギトのピザや、サイコロステーキ、こってりラーメンなどと共に飲むようにしましょう。
アルコール濃度の高い酒を一気に飲んだり、空腹時に何も食べずに飲んだりすることも、肝臓に負担をかけることができて良いですね。

しかし、酒を飲む上で何よりも大切なことは、楽しむために飲む、明日の活力を養うために飲む、のではなく、ただ酔うためだけに飲むことだと覚えておいてください。
酒を飲んで酔っ払えば気が大きくなって大言壮語を吐くことができますし、政府などの権威を口汚く罵る勇気が持てます。
見知らぬ人に向かって「Fuck!」と言うこともできますし、そうすればケンカにもなるでしょう。
酒に酔うことで、あなたはただ健康を損なうだけでなく、パンクロッカーにとって大切なやぶれかぶれの精神も得ることができるのです。
一歩間違えれば大変な結果を招いてしまうお酒ですが、パンクロッカーたるもの、お酒とは上手に付き合っていきたいものですね。

・タバコを吸おう

前項で触れたとおり、飲酒には適量であればかえって健康になってしまうという、忌避すべき弊害がありました。
一方、タバコはどうでしょう。
ご安心下さい。タバコは飲酒とは異なり、少量であろうと身体に悪いです。
その害悪はマリファナ以上と言われているほどです。
百害あって一利ありません。飲酒より安心して用いることが可能です。(実際は喫煙にも乳がん予防など一利程度はありますが、百害の効果が大きいので安心ですね)

タバコを吸う上での最大のメリットは、やはり痰が出やすくなることでしょう。
痰が出やすくなれば、当然、唾を吐く回数が増えます。
唾を吐く行為はパンクには付き物ですが、初心者の内はうっかり唾を吐くことを忘れがちです。
ですが、頻繁に痰が出れば、それに応じて嫌でも唾を吐かざるをえません。
タバコは身体を不健康に保つだけでなく、唾を吐くという面でもパンクにとって大切な行為なのです。

また、最近は分煙だの禁煙だの、好きなところでタバコを吸うこともままならない世の中ですが、生粋のパンクロッカーであるあなたは、当然そのような他者の意向に縛られていてはいけません。
どこだろうが、いつだろうが、吸いたい時に吸う。
そのような傍若無人な心構えで喫煙に臨むべきでしょう。
あえて千代田区に繰り出すことで、己のパンク魂を見せつけるのも良いですね。

しかし、タバコにも注意すべきことがあります。
それは飲酒とは全く真逆です。
そう、飲酒とは逆に、タバコは吸いすぎてはいけないのです。
なぜなら、タバコの吸いすぎは肺がんになる怖れがあるからです。

不健康を良しとするパンクロッカーといえども、肺がんは避けるべきです。
何故なら、肺がんはパンクではないからです。
肺がんはどちらかといえばサナトリウム文学です。
実際、サナトリウム文学は肺がんではなく、肺結核なのですが、残念ながら一般人から見れば肺がんも肺結核も「肺を病んでいる」の一言で十把一絡げです。
パンクロッカーを目指していたはずなのに、昭和の文豪になってしまっては心外極まりないことですよね。
タバコを吸うときは、中途半端に、カッコつけのためだけに吸うよう心掛けましょう。

・薬に溺れよう

「食」「睡眠」「酒」「タバコ」と、これまでに挙げた不健康生活を実践してきたあなたにとって、薬に溺れることは何も難しいことではありません。
よく、酒とかケンカとか他のパンク行為はしても薬だけはダメだ、薬だけは手を出しちゃいけない、という人がいますが、まったく愚かな意見です。
そのようなことを言う人はファッションパンクです。
何故なら、本当にその人がパンク行為をしっかり実践してきたならば、望むと望まざるとに関わらず、その人は薬に溺れざるを得ないからです。

では、具体的にパンクロッカーが用いるべき薬とその状況を解説しましょう。
言うまでもないことですが、その時々に応じて、適切な薬を、用法通りに用いることが重要です。
それらを見誤ってしまうと、薬が十分な効果を発揮できないからです。


【頭痛】

頭痛はパンクロッカーにとってお馴染みの症状といえるでしょう。
不健康・不摂生のパンクロッカーは往々にして風邪をひきがちですし、風邪をひくと頭痛になります。
また、睡眠不足や逆に睡眠過多でも偏頭痛の原因となりますし、ケンカで殴られても頭痛になります。
さらに精神的なストレスから緊張型頭痛になることもあります。
日頃から社会に対し不満を持っているようなパンクロッカーは緊張型頭痛に悩まされることでしょう。

バファリン
《特徴》
痛みと熱を抑えるアセチルサリチル酸と、ダイバッファーHTという2つのすぐれた成分を含んでいます。痛みに早く、良く効きます。また、オレンジ味の小児用バファリンもあります。ただし、半分は優しさでできているため、「バファリンはファッションパンクだ」という人もいます。パンクに優しさはそぐわないからです。
セデス
《特徴》
エテンザミドはじめ4種類の成分が配合されています。痛くなったらすぐセデスです。しかし、セデスはパンクロッカーの使う頭痛薬としてはふさわしいものではありません。「セデス」→「せデス」→「せDEATH」→「DEATH METAL」となり、メタラーの頭痛薬だからです。
ノーシン
《特徴》
3つの有効成分(アセトアミノフェン、エテンザミド、カフェイン)を配合しています。錠剤は小粒で飲みやすいです。しかし、薬効よりも特筆すべきはそのネーミングでしょう。「No sin(罪がない)」とは、まさにキリスト教の原罪概念の否定です。なんとパンクな頭痛薬でしょうか。


【風邪】

頭痛薬の項目でも触れましたが、不健康・不摂生を旨とするパンクロッカーに風邪はつきものです。
しかし、たかが風邪と侮ってはいけません。
風邪は万病の元、蟻の穴から堤も崩れます。
そうならないよう、風邪はひきはじめのうちに確実に治しておきたいですね。

風邪薬で留意したいポイントは、塩酸ブロムヘキシン・カルボシスティン・塩酸アンブロキソールなどが配合されていない薬を選ぶことです。
上記3種を服用すると痰の切れが良くなってしまい、せっかく風邪をひいたのに、唾を吐く機会が得られなくなるからです。

新ルルAゴールド
《特徴》
持続性の抗ヒスタミン剤です。効果が強く、眠気などの副作用が少ないのが特徴です。しかし、ルルという名称はどうしても由紀さおりの「夜明けのスキャット」を思い出してしまいます。スキャットはパンクではありません。
ドリスタン
《特徴》
お湯または水に溶かしてから服用するタイプのかぜ薬で、口あたりのよいレモン味です。ドリスタンという名は、おそらく「センチメンタル・ジャーニー」を歌ったアメリカの女性ジャズシンガー「ドリス・デイ」のことでしょう(「ドリスたん」という意味でしょうか)。残念ながらドリス・デイはスウィング・ジャズなのでパンクではありません。
葛根湯
《特徴》
「かっこんとう」と読みます。中国の医書に収録されている漢方です。「葛」という字は「くず」と読むことができます。言うまでもなく、これは「社会のクズ」、つまりパンクロッカーのことを指しています。パンクロッカー御用達の風邪薬といえるでしょう。


【打ち身・筋肉痛】

打ち身や打撲などもパンクロッカーにとってはありふれた症状です。
日常のケンカや、ライブでの殴り合い、はたまた泥酔してスッ転んで身体を打つなど、打ち身や打撲は日常茶飯事といえるでしょう。
筋肉痛は、多くライブの後に起こります。
日頃ロクに運動もせず酒ばかりかっ食らっているパンクロッカーが、突然ライブというハードな活動をするのですから、筋肉が悲鳴をあげるのも当然でしょう。


サロンパス
《特徴》
血行を促進するビタミンEや炎症を抑え痛みを沈める作用を持つサリチル酸メチルなどを配合しています。一日数回患部に貼付して用います。しかし、ネーミングがよろしくありません。サロンパスの「サロン」とは、フランスで上流階級の婦人の社交場を意味します。上流階級という時点で全くパンクとは縁の無い医薬品ですね。
アイスラブ
《特徴》
筋肉や関節の疲労・痛みを改善する外用消炎鎮痛剤です。名前に「ラブ」とありますから、パンクではありませんね。パンクはラブじゃなく、デストローイですから。
パスタイムA
《特徴》
薄くて、目立たなくて、匂わない貼り薬です。”pass time”(パスタイム)とは「ヒマ潰し」という意味で”kill time”と同じです。Killという暴力的なタームと関連があるので、たぶんパンクでしょう。


ここで紹介した薬はパンクロッカーが用いるものとしてはほんの一部です。
上に挙げたものだけ使用していても、まだまだ薬に溺れているというには遠く及びません。
各自で自分の体調をしっかり管理し、必要な薬を毎日忘れず服用するよう心掛けましょう。

・ケンカをしよう

パンクロッカーに暴力はつきものです。
パンクロッカーがライブにおいて客に暴力を振るったり、物を壊したりするのは有名ですよね。
しかし、繰り返し述べていることですが、そのような暴力性をただステージ上でのみ行っているようではファッションパンクの烙印を押されても致し方ありません。
本物のパンクロッカーは日常からパンクであるべきだからです。
つまり、あなたは日常的にケンカをする必要があるのです。

ですが、ここでも一つの大きな問題が生じます。
ケンカをすると怪我をするということです。
自分より弱い相手であっても無傷で勝利することは難しいですし、そもそも不摂生の極みと言うべきパンクロッカーより体力の劣った相手もそうはいません。
ケンカを吹っかけるたびにいつもボコボコに殴られていたのでは体がもちませんし、そんなことでパンクが嫌いになっても馬鹿らしいですよね。

私たちはパンクロッカーである限りケンカをしなければなりません。
しかし、怪我をするのは避けたい。
このジレンマを解決するには、どうすれば良いのでしょうか。
実は、ほんの少しだけ頭を柔らかくすれば、答えは簡単に見つけることができるのです。

ここで大切なことは、私たちはケンカをすることが肝要であり、怪我をする必要はないということです。
つまり、私たちはケガをしないようなケンカをすればいいのです。
ケガをせずにケンカができれば苦労はないぜ、そのようにあなたは思うかもしれません。
ですが、少し視野を広げて見れば、ケガをせずにできるケンカ、というものは案外たくさんあるものなのです。

まず思いつくのが喧嘩凧です。
喧嘩凧とは凧の揚げ糸を絡ませ合い、糸の斬り合いをする遊びです。もちろん、糸を切られた方が負けとなります。
日本の伝統的な喧嘩凧としては、長崎のハタ、田原の田原凧が有名です。
また、世界各地にも同じような凧があり、インドの喧嘩凧はハタの原型といわれていますし、東南アジア諸国にもあります。
おそらく、セックスピストルズの面々も喧嘩凧を愛好していたのではないかと思います。

ただ、喧嘩凧といえど、まったく怪我の危険性がないというわけではありません。
たとえば凧が電線に引っ掛かるだけでも感電死の怖れがありますし、金属製のワイヤーなどを使っていれば、凧の落下時に怪我人が出る怖れがあります。
パキスタンでは凧による怪我人が100人以上出たという事例もありますので、たかが凧といえど決して侮ってはいけません。
怪我を避けるために喧嘩凧を選んだのに、それで怪我をしてしまったら全く本末転倒ですよね。
そうならないためにも、周りに電線などがないか注意し、安全性を確認した上で喧嘩凧を行うよう注意してください。

もう一つ、身近なケンカの例としては、ケンカ祭りがあります。
ケンカ祭りとは、お祭りの最中に怪我人が出たりする過激なお祭りのことで、三大ケンカ祭りと呼ばれる地車祭り(大阪)、飾山ばやし(秋田)、トンテントン(佐賀)などが有名ですが、他にもケンカと名のつくお祭りは全国あちこちにあります。
その中から、あなたの近くで行われているお祭りに参加すれば良いでしょう。

ただし、注意したいのは積極的にケンカ祭りに参加してしまうと、怪我をしてしまうということです。
怪我を避けるためにケンカ祭りを選んだのに、それで怪我をしてしまったら全く本末転倒ですよね。
そうならないためにも、積極的に祭りに参加したい気分をぐっと抑えて、屋台でわたあめを買ったり、金魚すくいをしたりと、控えめにお祭りに参加するよう心掛けなければなりません。

凧を揚げるのも面倒だ、お祭りに参加するのも面倒だ、という方には、少々姑息な手ではありますが、献花をするという手段もあります。
あなたのお手元の新聞を広げ訃報欄を見て下さい。
毎日必ず誰かがお亡くなりになっていますので、その方の墓前にお花を供えれば良いでしょう。
また、献花の郵送サービスを行っている会社もありますから、それらを利用すれば電話一本で家にいながらにして献花をすることが可能です。

この献花は、パンクロッカーが行うべき、いわゆるケンカとは全くの別物ですが、何もしないよりかはマシというものでしょう。
少なくとも、「オレは毎日のように”ケンカ”してるぜ」と人前で豪語することができます。
「どんなケンカだったんだ?」と聞かれれば、「相手がかわいそうになったぜ」と答えることもできます。
ファッションパンク呼ばわりされることは避けることができるでしょう。
パンクにとって大切なことは、形ではなく本質です。
どのような形であれ、「ケンカをしよう」という強い志が何よりも大切なのではないかと私は思います。

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