前述の通り、ライブハウスの審査を受けるためには、デモテープと共に「プロフィール」が必要となります。
プロフィールはとても大切なものです。
単なる文字情報に過ぎないプロフィールですが、「出演を希望する意欲」や「将来の展望」「音楽への情熱」など、デモテープだけでは伝えきれない様々なことをアピールできるからです。
ライブハウスはこのプロフィールを元に、どんなバンドと対バンを組ませるか、熱心に活動しているか、などを判断するのです。
ですから、コピーバンドだからといって、単に「ピストルズのコピーをしています」だけではダメです。
文章の上手い下手は関係ありません。自分たちの個性や目標、PRは必ず書けるはずです。
とにかく、自分たちがいかに音楽に対してやる気がないのか、自分たちがどれほどのパンクロッカーであるのかをライブハウスに伝えるよう努力しましょう。
また、「自分たちはファッションパンクではない」ということは執拗なまでに強調しましょう。
とにかくファッションパンクと誤解されることが何より恐ろしいのですから、ファッションパンクではない、というアピールは、どれほどやってもやり過ぎということはありません。
ホンモノのパンクロッカーだということを、はっきり何度も明記することが重要です。
とにかく、まずは言葉で伝えるのです。
そして、このようなプロフィール作製こそ、まさにマネージャーの仕事です。
マネージャーは自分たちのパンクバンドを売り出すために、ショッキングで人目を引く、過激なプロフィールを書かなければなりません。
少々の脚色もやむを得ません。メンバーから反撥があるかもしれませんが、結果を出して捻じ伏せましょう。
では、実際に使われているパンクバンドのプロフィール例を元に重要なポイントを解説していきましょう。
これは「ダイナマイツ」というパンクバンドのプロフィールで、彼らのプロフィールにはパンクバンドにとって大切なファクターが全て詰めこまれています。
下記の実際例から、プロフィール作製に必要なテクニックを学びましょう。
■プロフィール例(バンド名)
《ダイナマイツ》
オレたちはダイナマイツだ。
バンド名はその名の通り、ドガーン!となってボガーン!という、感情の発露としてのパンクをやっているぜ!
言っておくが、オレたちはファッションパンクじゃねえぜ。
Shit!ホンモノのパンクロッカーはオレたちだけだ。
今の腐りきったロックシーンに、本当の革命を起せるのはダイナマイツだけだ!
パンク気取ってラブソング歌ってやがるその辺のヘボどもをまとめて爆死させてやるから覚悟しやがれ!クソッタレー!
(活動歴)
1998年11月 結成
1999年2月 ファーストライブ(寝過ごしてライブはしなかった)
1999年5月 セカンドライブ(酒を呑んで誰も演奏できなかった)
1999年8月 サードライブ(暑いから誰も来なかった)
1999年12月 4thライブ(寒いから誰も来なかった)
(中略)
そして、オレたちは伝説となる......
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まずは、自分たちのバンド名と、その名に込めた想いなどを熱く語りましょう。
上記の例ですと、「ダイナマイツ」というバンド名が“感情の発露”であること、つまり自分たちのメッセージが正しくパンク的であることをアピールしています。
また「バンド名はその名の通り、ドガーン!となってボガーン!という、感情の発露としてのパンクをやっているぜ!」と、明らかに日本語がおかしいことからも、いかに感情に任せてこのプロフィールを書き上げているか、またそのテンションが凄まじいものであるかを感じさせます。
もちろん、これはマネージャーの創作なのですが、あたかも本当にメンバーが書いているかのような臨場感が伝わってきます。実に良い仕事です。
また、感情に任せて書いているように見せかけながらも、「その辺のヘボどもをまとめて爆死させてやる」など、バンド名に絡めたレトリックを用いたり、「Shit!」「クソッタレー!」など、それだけでパンクロックをイメージさせる単語をリズム良くテキストに盛り込むことで、アクセントとしています。
さらに、活動歴を見ると全然ライブが出来ていないことが分かり、ライブハウス側に「こいつら音楽やる気が無いな。パンクだ!」という印象を与えることに成功しています。
極め付けは、締めの「そして、オレたちは伝説となる......」です。
言葉の意味は良く分かりませんが、とにかくすごい自信です。
■プロフィール例(メンバー)
まなぶ(まなぶ) Vo. 出身地:ロサンジェルス県
8年間アメリカで過ごしキックボクシングを学ぶ。
帰国後、中学3年でブラジルへサッカー留学する。
続けて、ドイツへサッカー留学した後、帰国。
バイクの免許を取り、100人の暴走族の頭となり、同時に米軍基地へと乗りこみ米兵相手にライブとケンカをする。その最中にも英検一級を取得。
現在はパンクバンド「ダイナマイツ」を結成。リーダーであり、ボーカル。
煮えたぎるような情熱と、ドガーンという感じのボーカリングが特徴。
ファッションパンクではない、ホンモノのパンクロッカーである。
たろう(たろう) Ba. 出身地:ロンドン県
中学生の頃、家を飛び出して、上京。
名前は専門学校時代からの友人である、まなぶが飼っていたハムスターの名前から付けられた。
いつでもどこでも目立っちゃう人気者で、人の気持ちが分かるパンクベーシスト。
浮浪児の「タイショー」、金持ちの「リボン」などと交遊を重ねる。
ロコ(本名:春名ヒロ子)という女性と数年にも渡る同棲生活の後、現在は「ダイナマイツ」のベーシストとして活躍中。
激しいパフォーマンスの最中にも、小動物のような愛くるしさを見せる。
ファッションパンクではない、ホンモノのパンクロッカーである。
じぶら(じぶら) Gt,.&Cho. 出身地:東京
東京生まれ。
悪そうな奴は大体友達で、裏の道を歩いて見てきた。
渋谷や六本木に思春期の頃ぞっこんになり、高校に鞄を置きっぱなしにし、親に迷惑をかけていたが、今では雑誌のカヴァーであり、そこら中でDON
DADAと幅を利かせている。
マイクを掴めば本気でNo.1であり、東京代表トップランカーでもある。
仲間や親やファンたちに感謝しつつ荒れたオフロードを進んでいた。
現在は「ダイナマイツ」のギタリスト兼コーラスとして、ギターでもコーラスでも、激しいプレイを見せる。
ファッションパンクではない、ホンモノのパンクロッカーである。
どらみ(どらみ) Dr. 出身地:富山
女のような名前だが、男。
幼い頃の事故で両耳を失った兄を持つ。
兄が上京した後、不甲斐ない兄に業を煮やし上京したどらみだったが、兄の友人のあまりの出来の悪さに呆れ果て、どらみ自身も荒んだ生活を送りつづける。
だが、パンクと出会うことで精神的に立ち直ったどらみは、兄やその友人との関わりを絶ち、数々のパンクバンドにてドラマーを歴任する。
現在は「ダイナマイツ」のドラマーとして、怒りに任せた激しいドラムプレイでダイナマイツを支え続けている。
好物はメロンパン。
ファッションパンクではない、ホンモノのパンクロッカーである。
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この「ダイナマイツ」メンバーのプロフィールには言うまでもなく、かなりの脚色が見られます。
ダイナマイツのマネージャーは彼らの経歴をドラマティックに演出するべく、様々な偉人・有名人を参考にしつつ、彼らのプロフィールを作り上げたのです。
これほどのプロフィールを書けとはいいませんが、しかし肝に銘じておいて欲しいのは、プロフィールには真実を書く必要など毛ほども無いということです。
プロフィールなんぞ、所詮口先だけの言葉遊びです。
せいぜい巧言令色を重ね、ライブハウスを喜ばせれば良いのです。仁の多少など関係ありません。
パンクバンドのマネージャーには、このような割り切った心構えが必要であることをしっかりと自覚しておいてください。
パンクバンドの求めているマネージャーは真摯で誠実なマネージャーではありません。
ビジネスライクに何事も割りきれるマネージャーなのです!
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