STEP4 「個人練習をしよう」



バンドというものはメンバー全員での練習も大切ですが、それ以前に個人での練習が必須となってきます。
全員が同じ程度のパンク技術を持ち合わせていないと、スタジオに入ってもお互いのグルーヴを感じ取れず消化不良なものに終わってしまうからです。
ここでは、バンド活動に絶対必要な個人での練習を、パートごとにポイントを絞ってアドバイスしていきます。

・スコアっているの?

では、ピストルズのコピーバンドたる私たちは、いかなる手順を踏んで各パートの個人練習をするべきでしょうか。
ほとんどの人は、その最初の一歩で致命的なミスを犯してしまいます。
それはすなわち、ピストルズのスコアブックを購入してしまうことです。

スコアブックというのは、全パートの楽譜が記載されている本のことです。
ギターやベースはタブ譜という専用の楽譜で書かれているため、これさえ見れば詳しいことは分からなくても、アルバム「勝手にしやがれ」に収録されている曲をそっくり弾くことができるという大変便利なものです。
スコアブックは確かに便利です。
ですが、その便利さの中に落とし穴があるのです。

良く考えてください。
私たちはセックス・ピストルズのコピーバンド、つまりパンクバンドを始めようとしているのです。
パンクとは何者にも媚びない、何者にも躍らされないものです。
その精神はピストルズのコピーをするときにも、当然堅持しなければなりません。
つまり、スコアブックのような紙っきれに諾々と従ってはならないのです。
スコアブックとにらめっこしながら一生懸命練習して、「勝手にしやがれ」に収録された全ての曲がそっくりそのまま弾けるようになったとしましょう。
それを誰が誉めてくれますか?
「あいつ、スコアブックに躍らされてるぜ。ファッションパンクだな」とバカにされるだけです。
うっかりスコアブックを買ってしまった人は、いますぐ窓から投げ捨ててください。

しかし、パンクを始めようという多くの人は、スコアブックを見なければCDと同じように弾くことができないじゃないか、と考えるでしょう。
確かに耳で曲を聴いてコピーする技術(これを専門用語で『耳コピ』といいます)がなければ、CDと全く同じ演奏をすることはできません。
では、どうすればいいのか?
答えは簡単です。CDと全く同じに弾く必要は無いのです。

私たちはパンクです。
パンクですから、何よりも自分の感性に素直に従うべきです。
あなたが「まったくCDそのまんまだぜ!」と自信を持った演奏が、あなたなりの「正しいコピー」なのです。
ここで不安になってスコアブックを見たり、耳コピが出来る人に「オレの演奏、合ってるかな?」などと訊いてはいけません。
自分が信じられない人はファッションパンクです。

実際のところ、自分が確信を持った演奏がCDと同じかどうかなど、そんなことの真偽にはいかほどの価値もありません。
胸に刻んでおいて下さい。
世の人々がピストルズのコピーバンドに求めるものは、スコアブックの額面通りの演奏ではありません。
そんなものはファッションパンクに任せておけば良いことです。
真のパンクバンドとは、ピストルズのコピーを通じて己のパンク魂を見せつけるもののことをいうのです。

・チューニングをしよう

ギター、ベースのパートについた人は、まず各々の楽器のチューニング(調弦)から始めなければなりません。
チューニングには幾つか方法がありますが、音叉を使ったチューニング、チューナーを使ったチューニング、音の狂っていないピアノなどの楽器を使ったチューニングが一般的です。

上に挙げたチューニング方法は、もしあなたがポップミュージックを志しているのであれば有効かつ正当な手段です。
しかし、パンクロックにおいて、それらのチューニング法はどれも好ましいものではありません。
どれも、自分以外の何かを規範としてそれに己を合わせようとする行為であり、そんなことはファッションパンクだからです。
私は自信を持っていうことができます。もしピストルズなら、絶対にそんなチューニングはしなかっただろう、と。
うっかり音叉やチューナーを買ってしまった人は、いまからでも遅くはありません。ただちに窓から投げ捨てて下さい。
もし万が一、パンクな友人に音叉やチューナーを見られてしまったときは、ファッションパンクと罵られることを覚悟してください。
しかし、稀にですが「バッテリーチェッカーと間違えた」「U字型磁石と間違えた」などの言い訳が通用することもあります。覚えておくと良いかもしれません。

(左:一般的なギターチューナー、右:一般的なバッテリーチェッカー、外見上はうりふたつです。間違えて購入してしまっても仕方ないですね)
(左:一般的な音叉、右:一般的なU字型磁石。外見上はうりふたつです。間違えて購入してしまっても仕方ないですね)

では、私たちパンクロッカーはどのようにしてチューニングをすれば良いのでしょうか。
これも同じです。私たちは、自分たちの感性を信じれば良いのです。

ギターのチューニングを例に取りましょう。
まず、ギターは最初に5弦を低いラの音に合わせます。
通常の場合ならば、ここで音叉を使ったりピアノの音に合わせたりするのですが、パンクロッカーはそれら外部のものには頼りません。

とりあえず「ラ〜〜」と声に出してみましょう。
そうです、その音です!
その「ラ〜〜」の音があなたの「ラ」の高さなのです!
その「ラ〜〜」の音にギターの5弦を合わせましょう。
大体合ったと思えばそれでOKです。
むしろ、最低でも±2音くらいの誤差は欲しいところです。
小さいことにこだわらないことで、あなたのパンク魂をアピールできるからです。

ただし、あまりに誤差が激しすぎると変則チューニングと思われるので、そこらへんの機微が初心者には難しいところです。
熟練したパンクロッカーになれば、決して変則チューニングとは思われないレベルであやふやなチューニングをすることができるようになります。

5弦の音が合ったならば、次は5弦の音と6弦の5フレットの音を合わせましょう。
6弦が合ったなら、次は5弦の5フレットと4弦の解放弦の音を合わせましょう。
それから4弦、3弦、2弦、1弦と順に合わせて行きます。
このようにして、5弦を合わせるだけでそれを基準に全ての音を合わせることができますが、それらのチューニング過程が途中で面倒くさくなった人は適当にひねっておけばOKです。

なお、あまりオススメはしませんが、5弦をラの音に合わせる、という慣習自体を古臭いと感じるパンクな人は、自分なりのチューニングを設定することもできます。
ただし、これはロバート・フリップというプログレッシブロックの大家が既にやってしまっていることなので、ギタークラフト(フリップのギター教室)の一員と普通に勘違いされる怖れがあります。
熟練のパンクロッカーならばともかく、パンク初心者にはオススメできません。

また、ギターの弦は6本、ベースの弦は4本という古臭い慣習をぶち壊したいと思う人もいるでしょう。パンクロッカーなら当然です。
しかし、かといって7弦ギターや5弦ベースを購入してはいけません。
それらは既に市民権を得ているからです。
ここでオススメなのは、普通の6弦ギターの場合、1弦、2弦どちらか(もしくは両方)を切っておくことです
ギターというものは弦が1つでも切れているとすぐに全体のチューニングが狂うため、「オレたちは規定のチューニングになんざこだわらないぜ!」というパンク魂をアピールすることにもなり、一石二鳥です。
ライブ中、常に定まらないチューニングで演奏をするのはカッコイイですよね。

・ギターの練習をしよう

さあ、ここからはついに各楽器ごとの練習を見ていきましょう。
まずはギターです。
ギターはパンクバンドでは比較的目立たないパートであり、ステージでのパフォーマンスもボーカルやベースと比べて、あまり練習することはありません。
しかし、その分ギターは演奏の比重が高くなるため、他のパートよりも格段に演奏の練習時間が増えることは覚悟しておいてください。

まずは、ピックの持ち方です。
そんなもの適当でいいじゃないか、と思うかもしれませんが、何事も基本が大切です。
ピックの持ち方が悪いと、ピックを落とさないままライブが終わってしまうことがあるからです。

ピックは親指と人差し指の間に挟むようにして持ちます。
このときに大切なのが、力いっぱい親指と人差し指に力を入れることです。
りんごを握りつぶすくらいのつもりで良いでしょう。
こうすることで腕に無駄な力が入り、後述するストロークが鬼気迫る迫力になるからです。

次はストロークです。
ストロークとはピックでもって弦をガギャーンとかき鳴らすことです。
ギターを弾くという行為は座って出来るものではありません。まずは立ちましょう。座っていては力が入らないからです。
立ったならば、背筋を伸ばし、深く深呼吸をしましょう。
そして、息を十分に吸いこんだところで息を止め、ゆっくりと、少しずつ、息を吐き出しながら腹に力を入れましょう。
お腹が膨らめばOK、これで準備は完了です。
あなたはいま「腹の底から声が出る」状態になったはずです。
さあ!あなたの思い通りの発声で構いません。
「アギャー!」などと叫びながら、鉄拳を振り下ろすようにギター弦をピックで殴りつけて下さい。
あまりの激しさに耐えきれず、ピックがどこかに飛んでいけば理想的です。

これがパンクの正しいストロークです。
実際のライブでは、いつもこのように理想的なストロークができるわけではありませんが、「理想的なストローク」を常に頭の中にイメージしているだけでもずいぶん違ってくるはずです。
まずはこれを何度か繰り返し、理想的なストロークのイメージを固めてください。
慣れないうちは弦で指を切ったりするかもしれませんが、仕方がありません。
パンクにケガはつきものです。

ストロークの練習に疲れたら、次はいくつかコードを覚えましょう。
まずは比較的簡単なC、G、Emなどを覚えましょう。
いくらパンクギタリストといえども、最低限このくらいのコードは知っておきたいところです。
言い換えれば、3つか4つコードを覚えればパンクギターは十分ということですので、ここは踏ん張りどころです。
面倒くさいと思いますが、頑張りましょう。

また、コードにはギター初心者の最初の難関である「F」という恐ろしいコードがあります。
Fは、人差し指で全ての弦の1フレットを押さえるという、超人的な技術が必要になるからです(これを専門用語で『バレー』といいます)。
これはまともに弾こうとすると非常に難解ですが、私たちパンクロッカーはこれをまともに弾く必要はありません。いや、むしろまともに弾けてはいけないと言うべきでしょう。
バレーを使った場合は、かならず2本、3本はミュートになるように心掛けましょう。
音がまともに出ずに「ペコッ」とか言う方が、断然パンクらしいです。
Fコードの音が全て問題なく出ているパンクバンドがいたら、ファッションパンクと考えて間違いありません。
なお、Fコードは似た形のDm7で代用したり、6弦を弾かないF省略フォームを用いることで簡単お手軽に解決することも可能ですが、そんな巧い世渡りをしていると、やはりファッションパンクと呼ばれることでしょう。

基本的に上に記したテクニックをマスターするだけで、パンクギターは用が足りるともいえます。つまり、
  • ピックの持ち方
  • 理想的なストローク
  • コードをいくつか
これだけ確認しておけばOKということです。

しかし、その一方、パンクギターには決して学んではいけないテクニックが多数あり、それらの誘惑を振り切る自制心がパンクギタリストには要求されるのです。
ギターに限らず、なぜパンクバンドは技術をアピールしてはいけないのでしょうか。
技術にとらわれず、自分たちの怒りを叫ぶことがパンクだからですね。
いかに自分たちの怒りを力強く叫んでいても、バックの音楽がテクニカルだとそれだけで興醒めしてしまいます。
それはまさに典型的なファッションパンクです。
私たちは理性的に技術的向上を最小限に抑える努力を常に払わなければなりません。
これはギターのみに言えることではなく、ベース・ドラム・ボーカルも同じことです。

話が逸れましたが、次に「パンクギタリストが修得してはいけない技術」の代表的なものを列記します。
これらの技術をうっかり既にマスターしてしまった人は、ギターを左手に持ちかえるなどの工夫をして、その技術を封印してください。

(修得してはいけない代表的なギターテクニック)
・プリング、ハンマリング、トリル
・ライトハンド
・スイープ
・チョーキング
・スライド
・ミュート
・ハーモニクス
etc……

上から解説を加えますと、プリング・ハンマリング・トリル、それにライトハンドは見た目からしても、なんだかすごい技術のように思えます。
特にライトハンドはあまり音楽を知らない人でも「何だかすごい」というイメージを持っています。
ライトハンドなどしてしまった時は、もうファッションパンクは確定でしょう。
こんなものをライブで使ってしまったならば、パンク軍法会議にかけられ極刑に処せられても文句は言えません。

スイープもまずいですね。
これはライトハンドほど一般に知られてはいませんし、見た目もライトハンド程には派手ではありませんが、ちょっと考えればとてもテクニカルな演奏法であることがバレバレです。
全くの素人は騙せても、音楽に少し詳しい人が見れば「あいつらファッションパンクだぜ」と見抜かれてしまいます。

チョーキングは見ていて腹立たしい演奏法です。
チョーキングをするパンクギタリストを見たお客さんの多くはこう思うことでしょう。
「弦を持ち上げてるヒマがあるなら、弦を引きちぎれ!」と。
パンクを見に来るお客さんは、パンクギタリストが弦をわずか1cm程度上げ下げする行為に好感を持つはずがありません。
そんなせせこましいことをするくらいなら、思い切り良く弦を引きちぎれ!
そう思うに決まっています。
客の反感を買わないためにもチョーキングはするべきではありません。

スライドはピストルズのアルバム中でも非常に多用されている技術です。
よって、おっちょこちょいなパンクロッカーの人やファッションパンクの人はスライドは別に修得しても構わないのではないかと思いがちです。
ですが「技術」として、学んでまでスライドを使おうという姿勢は明らかに間違いです。
CDでスライドが使われている部分でも、あなたのライブでは必ず一度指を弦から離し、あらためて押さえなおすようにしましょう。
スライドの連続性を断ち切ることで、あなたの技術の未熟さ、つまりパンク魂をアピールすることができるからです。

ミュートは「音が出たら困る弦を音が出ないようにしよう」という心的配慮それ自体が、既にファッションパンクそのものです。
本当のパンクロッカーなら「出たければ出ればいい」という広く投げやりな心持で挑みたいところです。
しかし、ハーモニクスにしてもそうですが、本人が意図せずミュート・ハーモニクスとなってしまった場合には、何の問題もありません。

他にヴォリューム奏法やボトルネック奏法など、小手先の技術を用いた演奏法・テクニックは全て避けるようにしてください。
基本は、左手は押さえるだけ、右手は激しくかき鳴らすだけ、です。
カポも使うべきではありません。

バンドの中でギターは音楽的に最も重要なパートといえます。
何故なら、ドラムはただドンドコ叩いているだけ、ベースは客とケンカしているだけ、いまバンドが曲のどの辺りを演奏しているかは、ギターで判断するしかないからです。
ですのでギターは、バンドメンバーが自分たちがいま曲のどの辺りを弾いているのか、それが分かる程度には原曲に忠実に弾かなければならないのです。
しかし、あまり原曲に忠実過ぎるとファッションパンクと思われますので、この辺りの微妙な調節は経験を重ねるしかないでしょう。
バンドメンバーのみどの辺りか判断でき、お客さんが聴いても雑音にしか聞こえないギターが理想的なパンクギターです。

・ベースの練習をしよう

さて、次はいよいよパンクバンドの花形であり、フロントマンでもあるベースの練習について見ていきましょう。
ベースは確かにパンクバンドで最も活躍できる「美味しい」ポジションではありますが、ライブでの華々しい活躍は、全て日々の地道な練習あってのことだということを忘れないで下さい。
日々の欠かさぬ練習が無ければ、どんなに素質のあるパンクロッカーでもシドにはなれないのです。

まずはギターと同じく演奏面で気をつけることを述べます。
ベースというものは、基本的にギターと同じようなものでただ弦の数が減っただけ、多くの人はそう思っていることでしょう。
基本的な認識はそれで間違っていないのですが、しかし実際にはギターとは色々な点で演奏上の違いがあります。

まず、ピッキングですが、基本的にベースは1弦ずつ弾くものです。
ベースはギターのストロークのように、まとめて全ての弦を一度に弾くことはできません。
また、ベースはギターと異なり、断続的に弾きつづけなければならないため、ピッキングのたびに雄叫びを上げることもできません。
ですので、演奏自体はギターに比べ爽快感に欠けるものといえるでしょう。

また、ベースにはコードがありません(無いわけではないですが知らなくて構いません)。
ですので、左手は「ここらへんかな?」と思うところを適当に押さえておけばOKです。
ベースはギターほど原曲に近い音は要求されないので、どこでも良いのでとにかく適当に押さえておくだけで問題ありません。

ベースの演奏法をまとめると、基本は左手で適当に弦を押さえ右手でピッキング、となります。
ピッキングは常にダウンピッキング(弦を上からピックで弾く)を心掛けましょう。
ベースのオルタネイトピッキング(弦を上下交互にピックで弾く、アップダウンピッキングとも言います)はある程度リズムがキッチリとできた人がやるものですから、オルタネイトピッキングをしているだけでも「テクニックがある」と誤解される場合があります。
また、常にダウンピッキングで弾くことにより、単純に考えてオルタネイトピッキングの2倍手を動かすわけですから、見た目も激しくパンクな印象を与えることができます。

なお、ベースはピックで弾く弾き方のほかにも、指弾きや、スラップと呼ばれる特殊な弾き方があります。
ですが、基本的には全ての曲をピックで弾く方向で問題ないでしょう。
特にスラップは厳禁です。
スラップはチョッパーとも呼ばれる奏法で、弦を親指で叩いたり人差し指で引っ張ったりする奏法です。
チョッパーはギターにおけるライトハンドと同じく、「なんだかすごい」と誰もが思っている奏法であり、お客さんの誤解を招きやすい演奏法です。
チョッパーを使ったがためにファッションパンクと見なされた不幸なパンクバンドが幾つもあります。
気をつけてください。

さて、これまではベースの演奏面に関してのみ触れてきましたが、ハッキリ言ってこんな知識はどうでも良いことです。
パンクベーシストに求められるものは、演奏ではありません。
お客さんはパンクベーシストにありし日のシド・ヴィシャスの姿を求めているのです。
ですから、私たちは何よりもまず「シド・ヴィシャスになること」を意識して、ベースを弾かなければならないのです。

そのための具体的な練習法です。
まずは下は皮パン、上半身は裸になり(これを専門用語で『上裸』といいます)、シドの気分を出してみましょう。
女性なので裸は恥ずかしい、冬だから寒い、などの場合には無理に裸になることはありませんが、とにかくシドになった気分で挑みましょう。
そして、できるだけ大きな姿見の前にたち、格好を付け、「オレはシド・ヴィシャスだ、オレはシド・ヴィシャスだ」と心の中で10回唱えましょう。
近所迷惑にならないようなら声に出して(できるだけ大きな声で)言ってみてもよいでしょう。

気分が高まってきたならば、具体的な練習に入ります。
順番はどれからでも構いませんが、ウォーミングアップも兼ねて、「ステージで唾を吐く練習」を最初にすることをオススメします。
ステージで唾を吐くパフォーマンスは、ベーシストの大切な仕事の一つです。
映画「タイタニック」でもヒロインが唾を吐く練習をしていましたが、このように単なる唾を吐く行為も一筋縄ではいかないものです。
鏡に向かって、ベストな角度であなたの納得のいく吐き方ができるようになるまで、何度でも練習を繰り返してください。
何度もこの練習を繰り返していると、そのうち唾が枯れてくると思いますが、そういうときは梅干のことを思い出すと、唾が出てきます。
1セット10回で一日3〜5セットは練習しておきたいところです。

次は自分の身体を刃物で切り刻む練習です。
しかし、毎日の練習で身体に傷をつけていては、とても身体が持ちませんよね。
ですので、日々の練習では、主にその見せ方と刃物の扱い方について練習を重ねましょう。

まずは見せ方ですが、これは、やはり姿見の前にたち、どの部分をどう傷付ければカッコイイかを各自で研究することが大切です。
様々なアニメーションや映画を参考にするのも大切です。
とにかく、ライブで一発本番!というのは絶対に避けてください。
こういったパフォーマンスは本当に難しいもので、天性の才能がないと巧く見世物として機能しません。
私たち凡人は絶え間ない努力と研究を重ねて、やっと「自分の身体を刃物で切り刻む」パフォーマンスができるのです。
練習はいくら重ねてもやりすぎることはありません。

次に刃物を扱う練習です。
刃物というものは、言うまでもないことですが大変危険なものです。
扱いに不慣れな者が突然ステージで刃物を使えば、大怪我をしてしまうかもしれません。
日頃から刃物に親しみ、刃物を己の一部として使えるようになるまで練習を重ねましょう。

ライブで刃物として使用可能、かつ入手が容易い物は次のようなものです。
  • ガラスの破片
  • かみそり
  • 包丁
まずガラスの破片は除外しましょう。
これは入手は簡単ですが、ガラスの破片を使って何かをするのは明らかに非効率です。
他二品と比べても、その用途がもともと「ものを切断する」ことではないため、非常に扱いにくいものだからです。
ですので、次からはかみそり、包丁といった刃物に慣れ親しむには、どのような練習が有効か解説していきます。

まずはかみそりの使い方です。
私たちがかみそりの使い方に習熟するためにはどうすれば良いのでしょうか。
言うまでもありませんね。
ヒゲを剃れば良いのです。
電気式のひげそりを使っているベーシストの方は、かみそりに変えて下さい。
ヒゲも剃れて、刃物の扱いにも習熟でき、まさに一石二鳥です。
また、本多勝一著『買ってはいけない』によれば電気式のひげそりは電磁波の影響で身体に悪いそうなので、かみそりに変えることは健康に良いかもしれません。

次に包丁です。
これも言うまでもありませんね。
料理をすれば良いだけのことです。
包丁を入れるものは、出来るだけ人体に近いもの、大き目にカットされた肉類や魚類が良いでしょう。
「肉のハナマサ」という業務用スーパーではキロ単位で比較的安価に肉を扱っているのでオススメです。

刃物の扱いに習熟し、「自分の身体を刃物で切り刻む」パフォーマンスをマスターしたならば、ついにベーシストの代表的パフォーマンスである「ベースで客を殴る練習」に入ります。
これは大変危険なパフォーマンスであり、普通のバンドなら許されることではありませんが、私たちパンクロッカーには避けては通れない道でもあります。
そして、危険であるからこそ、日々の練習が欠かせません。
ライブで失敗しないよう、「ベースで客を殴る練習」は他の練習にも増して念を入れた練習をする必要があります。
ベースで客を殴るテクニックを、以下に段階的に記します。
これらの練習過程を順に追っていき、ベースで客を殴るテクニックを修得してください。

1、礼儀作法

ベースで客を殴る場合、必ず必要とされるのが礼儀作法です。
ベースは「礼に始まり、礼に終わる」と言われるほど礼法を重んじる楽器です。
なぜなら礼法のないベースは単なる暴力行為でしかないからです。

礼法の基本は立礼です。姿勢を正しましょう。
片足に体重を預け、その方向に頭をだらしなく傾け、ベースを持っていない方の手はズボンのベルトのあたりに引っ掛けます。
そして、殴るべき客を上から高圧的に睨みつけ、ペッと唾を吐き捨てます。
このとき相手から決して目を離さないように気を付け(これを目礼といいます)、また頭部は約15度持ち上げましょう。

2、ベースの持ち方

基本的にはネックの部分を持ちます。
ベースのヘッドに近い部分を持ちましょう。
両手の小指でネックを保持し、いわゆる傘を持つような握り方をします。
それから、やんわりと濡れ手拭を絞るように両手首を絞り込み、親指と人差し指の割れ目がフレットに対して平行となるように持ちましょう。
このようなベースの持ち方や、打突の際の力の入れ方を総じて「手の内」といいます。

3、ベースの構え方

ベースの構え方には様々な種類があります。
もっとも基礎的な構え方は中段の構えであり、正眼の構えともいいます。
これは基礎ではありますが、ベースの構え方の中では最も大切なものであり、熟練したパンクベーシストも多くの人はこの構え方を使っています。

上段の構えは攻撃的な構え方です。
相手に隙があれば、一気にベースを振り下ろし、攻撃することができますが、気持ちの上で負けていては上段の意味はありません。
上段の構えを使うときは常に気位を高く持ちましょう。

一方、下段の構えは守りの構えです。
相手が前に出てこないよう自分の身を守りつつ隙を伺う構えで、その消極的な姿勢はパンクロッカーにあまり好かれません。
下段の構えを多用しているとファッションパンクと思われますので、気をつけてください。

他には八相の構え、脇構えなどがありますが、実戦ではほとんど使われません。
基本は中段であり、最も有効な構えはやはり中段であることを覚えておきましょう。

4、素振りの練習

構え方を覚えた後は素振りの練習です。
これが一番大切な練習です。
肉体的にも大変な労力ではありますが、ベースの練習というものはこういうことです。
日々の積み重ねがあって、はじめてライブでシド・ヴィシャスのようなパフォーマンスが行えるのです。

素振りには以下のようなものがあります
・上下素振り
・前後正面素振り
・斜め素振り
・前後左右面素振り
・開き足での左右面素振り
・三挙動素振り
・一挙動素振り
・跳躍素振りetc......
これらの素振りを毎日回数を決めて行うことが大切です。
継続は力なり、とよく言います。
とにかく毎日休まずに続けることが、パンクベーシストになるための一番の早道なのです。

他にも足運びや日本ベース形(ベースの型の練習、昇段試験などでは必須です)など、練習すべきことは幾らでもありますが、初心者の方はとりあえず上記の4点だけ押さえておけばよろしいでしょう。


・ドラムの練習をしよう

次はドラムの練習についてです。
ドラムは困ったことに、家にドラムセットがない限り、自宅でドラムを使った個人練習をすることができません。
ですので、自宅では主に雑誌などを並べて、それをスティックで叩くか、もしくはイメージトレーニングを行いましょう。
しかし、実際のところ、ドラムはわざわざ家で練習するほどのものではありません。その理由は後述します。

ドラムの演奏で気をつけることは、やはりテクニカルになりすぎないことです。
ドラムフレーズはシンプルならばシンプルなほど良いです。
私が提唱するのは、常にハイハットとスネアだけで8ビートを叩き、たまにバスドラを踏むという形です。
気が向いたらシンバルやタムを叩いても良いでしょう。
ただし多用は厳禁。タムも1タムまでにしましょう。

ハイハットとスネアのみで8ビートを叩いていると、そのうち疲れてきます。
疲れたらスピードを落としましょう。
いうまでもないことですが、ピストルズのCD通りのBPM(Beats Per Minute、曲の速さ)で演奏する必要は全くありませんし、曲の最初から最後まで一定のBPMを保つ必要性も全くありません。
ドラマーはバンドサウンドの核であり、全てのメンバーはドラマーの叩くドラムに合わせ演奏をするのです。
これは言いかえれば、ドラマーは自分の好きなように曲の速さや展開を変えてもいい、ということです。
サウンド的に言うならばドラムは最もパンクなパートであるともいえるでしょう。

一般的にはドラマーはリズムキープが絶対条件のように言われていますが、それは誤った迷信です。
特にパンクロックにおいては全くあてはまりません。
ドラマーはメトロノームなどを使ってリズム感を鍛える練習をすればいいなどと無責任な教則本には書かれていますが、笑止千番というものです。鼻で笑ってやりましょう。
あんな一定のリズムを刻むことしか脳のない機械に、何者にも縛られないパンクロッカーが従ってはなりません。
家族がピアノなど習っている場合は、もしかしたら既にメトロノームがあるかもしれませんが、ただちに窓から投げ捨ててください。

ちなみに、ドラマーが気の向くままに速さや展開を変えたとき、メンバーがそれに付いてこれるかこれないか、それはメンバーがパンクであるかどうかに依ります。
メンバーが一人前のパンクロッカーであるならば当然ついてこれますが、ファッションパンクであった場合はついてこれません。
もしかしたら、何を勘違いしているのか「ドラムのリズム感がグチャグチャで最低のライブだったぜ!」などと言い掛かりを付けてくるかもしれません。
そんな勘違いファッションパンク野郎は一発殴ってさっさとクビにしてしまいましょう。
なお、メンバー全員がドラマーの気まぐれに合わせることができた場合、そこにはお客さんをも含めた一種の不思議な共有感覚が生まれます。
これがいわゆるグルーヴというものです。
グルーヴの作れるパンクバンドは本当に優れたパンクバンドであるといえるでしょう。
ファッションパンクではこうはいきません。

なお、ドラムは曲の展開を自由に変えることができますが、といって別に曲の展開を覚える必要性はありません。
ドラマーが何となく叩き始めれば、そこにギターやベースが乗って来ます。
あとはギターなどが演奏を終えたら、ドラムも叩くのを止めれば良いのです。
曲の展開は基本的に全てギターが管理してくれています。
あなたは曲の間中、とにかく思うままにスネアやハイハットをドコドコ叩いていれば良いのです。
ドラムは最も気楽なパートであるといえるでしょう。
このように、パンクドラムはとても簡単なため、基本的に練習はいりません。
これが冒頭で書いた「家で練習するほどのことはない」という意味です。

しかし、練習しなくともライブはできますが、それでも練習するにこしたことはありません。
ドラムセットが自宅にある人のために、もう少し具体的なドラムの叩き方を解説いたしましょう。
まず基本的な姿勢としては、椅子に座りだらしなく背中を曲げ、正面を睨みつけます。
足は両方ともペダルから離しておいてください。
足がつねにペダルに乗っていると、うっかり足を使いたくなってしまうからです。
当然ですが、足の使用は最小限に押さえましょう。
手と足が別々に動いているだけで「テクニカル」=「ファッションパンク」と思われる危険性があるからです。

スティックは適当に握りましょう。
ピックと同じく、やはりリンゴでも握りつぶすくらいの気合で持つことが望ましいです。
そして右手・左手は全身の力をこめて、暴力的に、ドラムを破壊するつもりで叩きます。
基本的には全てフルストローク(高い位置からスティックを振り下ろし、ショットが終わったら、また同じ高さまで持ってくる)です。
とにかく、ドラムを叩く、というよりも、ドラムを棒っきれで殴って破壊する、というイメージを大切にしてください。

ドラムにも、やはり修得してはならないテクニックがあります。
たとえばバス・ドラムのスライド奏法などがそうです。
スライド奏法とは、1回バスドラを踏むだけで2回音が出るという摩訶不思議な技です。
不思議なだけあり、技術的にも大変高度なものです。
決して使用しないようにしましょう。

またFill In(おかず)も最小限に留めましょう。
感情が昂ぶってスネアを連打したくなるときもあるでしょう。
そういう場合は仕方がありませんが、それにしても、あまりFill Inを多用していると、
「なんだ、あのドラマー。曲の展開を把握してるじゃねえか。ファッションパンクだな」
とお客さんに思われてしまいます。
やはり危険な行為であることは自覚してください。

ドラムは上記のように、基本的にはドコドコ気楽に叩いていれば良いのですが、1つだけマスターしておきたいテクニックがあります。
それはドラムを叩きながら酒を呑むことです。
基本的にライブでのステージドリンクはメンバー全員酒が望ましいのですが、他のパートが比較的気軽に酒を口にできるのに比べ、ドラムを叩きながら酒を呑むのは技術を要するパフォーマンスだからです。
本番でうっかりお酒をこぼしたりしないように、日頃から酒を呑む練習を重ねてください。

具体的には、右手はドラムを叩く動作を継続したまま、左手のスティックを持ち替えます。
くるっとまわして小指だけでスティックを持つようにすると良いでしょう。
そして、左手の親指・人差し指・中指を使って酒瓶の首をつかみます。薬指は添える程度です。
そのままおもむろに酒を呑み、酒瓶をこぼさないように地面に置きます。
前へ向き直り、左手のスティックを持ち直し、何事もなかったかのようにドラムに戻ります。
この酒を呑む挙動中、つねに右手はドラムを叩きつづけていることが肝要です。右手が一定のリズムを保っていれば、モアベターです。
私は前に、ドラムは一定のリズムを刻む必要などない、と書きましたが、なぜ酒を呑むときだけは一定のリズムを崩さない方がベターなのでしょうか。
それは、「演奏中に酒を呑む」という行為がドラマーにとってごく自然な行為であることを強調するためです。

文章で読むと簡単そうに思うかもしれませんが、実際、ドラムスティックを左手に保持したまま、さらに酒瓶を掴むというのは高度なテクニックです。
家でスティックと空き瓶を使って、上手に出来るまで何度でも練習してください。
失敗して酒をこぼすと、後でライブハウスの人から怒られてしまいます。
立派なパンクロッカーとしては、人に迷惑をかけるような行為は避けるようにしましょう。

・ボーカルは練習するの?

ボーカルは何を練習すれば良いのでしょうか。
ボーカルはギターと違いそれほど音楽的な正確さは求められませんし、客を殴るときもベースと違い己の拳で殴るのみです。
ボーカルには基本的に練習すべきことはありません。
日々、不摂生な生活を心掛けるくらいのものです。

しかしボーカルにはむしろ学んではいけないテクニックが多く、しかもボーカルの場合は知識として得るだけで、それなりに身になってしまうので困り者です。

特に遠ざけておきたい知識が腹式呼吸に関するものです。
いうまでもありませんが、たとえそのパンクボーカルがどれほど心からの怒りを歌っていようと、それが腹から出た良い声であったら興醒めですよね。
やはり、怒りを歌うときにはテクニックを忘れ、感情に任せたがなり声であるべきです。

またライブにおいても、ボーカルの歌声が枯れることなく最後まで綺麗に歌われていたら、これもやはり興醒めです。
怒りに任せて歌っているボーカルの喉が途中で潰れないわけがないのです。
喉が潰れてライブの途中でまともに歌えなくなり、あとはガラガラの声でムリヤリ捻り出すように歌うのが正しいパンクボーカルといえます。
腹式呼吸をマスターすると、比較的喉に負担をかけずに歌うことができるため格段に楽になります。
しかし、楽だからといって安易に楽な方に流されていてはパンクは務まりません。
あなたは腹式呼吸を使うことで、パンクとしての誇りを失うことを忘れないで下さい。

そういった感じで、ボーカルは最低限腹式呼吸を使わないことに注意を払いましょう。
あとは、まさか言うまでもないとは思いますが、間違ってもホーミー(一人で二つ以上の音を同時に発声するモンゴルの伝統的発声法)など覚えようとしないことです。
ホーミーなど使った日にはライトハンドやチョッパーの比ではありません。
いったいどこの世界にホーミーを駆使したパンクロッカーがいるでしょうか。
そんなものをマスターした日には、もう、なんていうか、ファッションパンクとか、そういう次元じゃなくって、もっと違うジャンルで多くの人に尊敬されるべきだと思います。

あと、ボーカルに関しては、歌詞の問題があります。
ピストルズのコピーをするからには、一応曲の歌詞を覚える必要があるからです。
理想的には歌詞は以下のように暗記するのがベストです。

まず大前提として歌詞カードは見ません。
別に見ても構わないのですが、歌詞カードの通りに覚えてしまう危険性があります。
歌詞カードはいうまでもなく英語です。
その英語を一字一句正確に覚えてしまうと、
「歌詞カードの通りだ→あいつパンクのくせに英語読めるのか→ファッションパンクだな」
と、思われてしまいます。
私は個人的には英語が読めたってファッションパンクではないと思うのですが、まだまだ一般的な通念では
「英語が読める→大学を出ている→資産階級→ファッションパンク」
という先入観が一般的です。
自分たちが幾らファッションパンクではないと言い張っても、周りの人がファッションパンクだと言い出せば、なかなか身の潔白は証明できません。
仕方がありません。長いものには巻かれろ、です。
念には念を入れて、歌詞カードを見ないで歌詞を覚えるようにしましょう。

歌詞カードを捨てたならば、とにかくCD「勝手にしやがれ」のコピーすべき曲を繰り返し聴きましょう。
何を言っているか分からないと思いますが、構いません。
CDのジョニー・ロットンのボーカルに合わせて、なんとなく歌ってみましょう。
最初は、何を言っているか分からないあやふやな言葉を口に出すわけですから、あまり大きな声では歌えず、小さな声でごにょごにょと歌うことになると思います。
しかし、何度となく歌っていると、そのあやふやな文句を自信を持って大きな声で歌えるようになります。
こうなれば、あなたなりの歌詞が完成したと言えます。
あなたはライブでも自分の頭の中に流れるジョニー・ロットンの歌声の通りに歌えば良いのです。

こうして作られた歌詞を歌うのがパンクボーカルに取ってベストなのですが、しかし、実際のところ、このようにして歌詞を作るのは非常に難しく、頭の中でジョニーの声が一字一句はっきりと聞こえるまで、何度となく繰り返してCDを聴かなければなりません。
ですが、忙しい社会人が休日の余暇に行うパンクバンドでは、そのような時間が取れないかもしれません。

そこで、若干努力を要する行為ですが、ジョニーの歌声を記憶に定着させるため、歌声が聞こえるままに紙などに書き記すことをオススメします。
人間は言語化されないものは記憶できませんが、言いかえれば、言語化したものを記憶することは容易です。
この作業は少々面倒くさいものですが、記憶定着の効率性を考えれば、実際には遠回りではなく近道なのです。
次に、一例として、私の聴き取った『BODIES』の歌詞を記しておきます。
みなさんが書き記すときの参考にしてください。

『BODIES』

1、
しーわざがんふぁーおぉーりはんま
しーじゃすはざざーぱーんせいや
しーわざかいさばさないちぇいや
ないわざぽーりんすれすべいちぇい
しーわざないわなKILLざーばいばい
しーさならさんふろーまかんとりぃ
しーわざななんまー
しーわざばだらいすとらい

ほでーえ あのざななんおう
ぼでー あななななんおう

とらいちゅなささおうふぁんちゅれいや
えーれちゅっとまいふぁいおうせ
えーなぱっちゅおうらばいせい
どらわなばいばいすとれいえー

ぼでー すとらいなFUCKどらいびんめー
どらわなおー
いざな ぼあーんしぇー

ほでーえ あのざななんおう
ぼでー あなぼぼんせいやー

ふろべんすとれー
ぐろでえんぶろうびんまーす
あのぜでぃすちゃーい
あのぜんでぃすらいふろうちぇーん
あのぜふろうでぃすふろーん あー

FUCKでぃすあんFUCKざっと
FUCKいんあなFUCKあんFUCKいんぶらん
しざわなばいえなろっさんざっ
あいわなばいべあろさんぐっ

ぼでー あのざらなんぼう
ぼでー あのざんぐう
ほでーえ あのざななんおう
ほでーえ あのざななんおう

あななんおう
あななななーもう
あなななわなななわなななわなななわなもう
あななぼでー
あなななわなななわなななわなななわななもう
あなななななぁあ ぼでー うー


上を見ても分かる通り、自由に聴き取るといっても、FUCK、KILLなど必要なタームだけは確実に押さえておきましょう。

もし万が一、ライブ中に突然歌詞を忘れてしまったときは、どうすれば良いのでしょうか。
問題ありません。
そういうときはあなたの心からの叫びを素直に口に出せば良いのです。
そして、あなたが立派なパンクボーカルであるならば、あなたの口から出る言葉は間違いなく「FUCK!」であることでしょう。

そして最後に、出来ることなら学習しておきたいのは日本各地の方言についてです。
CD「勝手にしやがれ」を聴いた方はお気付きと思いますが、ジョニー・ロットンは例えば「holiday」を「オリダイ」と発音しています。
これはジョニー・ロットンがロンドンの下品な方言、コックニー訛りで歌っていたためです。
このことからも分かるように。パンクバンドのボーカルは出来る限り多くの方言を学習し、我が物とした方が良いのです。
しかし、これはオリジナル曲を作ってからでも遅くはないでしょう。
日々学習を重ねておけば、いざオリジナル曲を始めるときに焦ることはありませんが、とりあえずピストルズのコピーをしている限りは特別急いで学習する必要性はありません。


・マネージャーは?

マネージャーに練習することなどあるのでしょうか?
基本的に練習すべきことはありません。
しかし、準備することなら幾らでもあります。

マネージャーの大切な仕事のひとつに、自分のバンドについての悪口を第三者のフリして喧伝することがあります。
もともとセックス・ピストルズもマネージャーのマルコムが最初に苦情の電話をかけ、それが起爆剤となり、全英中からピストルズへの苦情が相次いだと言います。
マネージャーはこのような事態を想定し、常日頃から苦情の文案を考えておくのが、練習といいますか、マネージャーの責務というものでしょう。

たとえば、自分のバンドがライブを行った後は、そのHPの掲示板に苦情の書き込みをしなければなりません。
もちろんマネージャー本人が書きこんでいることを悟られてはなりませんから、対バン目当てで来たお客さんがたまたまそのパンクバンドのライブを見た、という設定で書き込みをしましょう。

以下に、私の拙い文章ではありますが、例を挙げておきますので、マネージャーの方は参考にしてください。

題名:今日あなた方のライブを見ました。
投稿者:山下好雄

はじめまして。
今日、『×××』のライブハウスにて、あなた方のライブをたまたま目にしたものです。
私も普段はこんなことを突然書きこむような礼を失したことはしないのですが、今日のあなた方のライブがあまりに目に余るものだったので、怒りのあまり書きこませていただきます。
あなた方は一体何を思って、あのような暴言を公の場でわめき散らしているのですか?
あなた方のような年齢にもなって、恥ずかしげもなく、よくあのようなことが言えるものですね。
少しは社会的な責任ということも考えてはどうでしょうか。
あの場所にいたのはあなたたちのバンドのファンだけではないのです。
他のバンドを見に来た人もたくさんいるはずですし、お金さえ出せばあのライブハウスには誰でも入れるのです。
その中には年端もいかない少年少女も少なからずいました。
あなた方のメッセージはそれらの分別もつかない年頃の少年たちにどれほどの悪影響を与えているか、分かっているのですか?
ライブハウスでは、リスナーはバンドを選ぶことは出来ないのですよ!
誰もいない場所で、あなたたちだけでわめきちらすなら、誰も文句は言いません。
しかし、私が見に来るような場所であんな卑猥な歌詞を撒き散らすのは、金輪際絶対にやめてください。
本当に不愉快です。

あなた方が一刻も早く音楽活動をやめ、まともないち社会人として復帰できることを祈っています。
まあ、無理でしょうけどね!

上に例で挙げたものが、いわゆる「良識派型」「丁寧型」の書きこみ例です。
基本的に、批判のポイントは「良俗秩序を乱す過激な歌詞」に限定し、それらを良識人を気取って、丁寧な口調で批判するのです。
ただ、上記の例を見れば分かる通り、この書きこみの論旨は中頃までは「少年たちに悪影響を与える」というものですが、終盤では「私が嫌だからやめろ」と個人の感情論に流れています。
そして文中には丁寧口調に紛れて「怒りのあまり」「わめき散らす」「金輪際絶対にやめてください」などの本当に良識ある人間なら決して使わないような表現を配置し、最後はこれまた大人気ない皮肉で締めています。
マネージャーが批判的な意見を書きこむのは、主に「ムーヴメントを作るため」「批判に対する擁護的感情を引き起こさせるため」です。
良識的な文章の中に、非紳士的な表現を紛れこませるのは、それによってこの批判的意見に対するお客さんの精神的な苛立ちを呼び起こさせ、反抗心を煽るためのテクニックなのです。
また、同じように批判的な意見を書きこもうとしている潜在的な人たちからしても、論理的のみならず、感情的な批判が書かれていることは大きな強みになるはずです。

さて、もうひとつ、今度は上記の例の対極にある「技術批判型」「ロック少年型」の書きこみ例を挙げてみましょう。

題名:おまえら、音楽ナメてんのか?
投稿者:イングヴェイ・インペリテリ

おい、おまえら、今日たまたまライブハウスで見たけどよ・・・。
ハッキリいってクソだわ。
ボーカルは何言ってるか全然わかんねえし、ギターもベースもヘッタクソだしドラムのリズムもグチャグチャじゃねーか。
おまえら、あんなもんでライブハウス出てんじゃねえよ。
おまえら全然練習とかやってねえんだろ?
雑音並べてアーティスト気取ってんじゃねえよ。
オレたち、ホントに音楽が好きでライブハウスに通ってるやつからしたらよ、おまえらみたいな雑音音楽バンド、ホントムカつくわ。
おまえらみたいなクソ音楽聞かされるためにカネ払ってんじゃねえんだよ。
最低限、客が聞いて不快にならねえ程度に技術つけてからライブやれよな。

おまえらみたいなのがいい加減な気持ちで音楽やってるから、日本のロックシーンは腐ってるとかいわれんだよ!
いいか、おまえら、もう2度とライブハウスに出るんじゃねえぞ、わかったか!

このケースの批判のポイントは「パンクのサウンド的アバウトさ」です。
十代後半の洋楽ロック好き少年に多い「技術的にヘタなバンドは聴く価値が全くない」という青臭い思想をイメージして、書きこみを作成しましょう。
この書きこみも「パンクのことは何も分からずに文句を言っている」ことを強調することが重要です。
自分のバンドのお客さんが「ププッ、こいつパンクのこと何も分かってねえぜ」と優越感を持てるようにすることがこの書きこみの狙いなのですから。
また、この場合では投稿者名でその青臭さをさらに強調することができます。
「イングヴェイ」「インペリテリ」と速弾きギタリストの代表格二人を並列することで、「ギターソロが1分以上ない音楽はロックじゃないぜ」という投稿者のキャラクターを作り上げています。
ただし、投稿者名を「ロバート・フリップ・フリー」などとすると、微妙に受ける印象が変わってくるので注意しましょう。

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