では、ピストルズのコピーバンドたる私たちは、いかなる手順を踏んで各パートの個人練習をするべきでしょうか。
ほとんどの人は、その最初の一歩で致命的なミスを犯してしまいます。
それはすなわち、ピストルズのスコアブックを購入してしまうことです。
スコアブックというのは、全パートの楽譜が記載されている本のことです。
ギターやベースはタブ譜という専用の楽譜で書かれているため、これさえ見れば詳しいことは分からなくても、アルバム「勝手にしやがれ」に収録されている曲をそっくり弾くことができるという大変便利なものです。
スコアブックは確かに便利です。
ですが、その便利さの中に落とし穴があるのです。
良く考えてください。
私たちはセックス・ピストルズのコピーバンド、つまりパンクバンドを始めようとしているのです。
パンクとは何者にも媚びない、何者にも躍らされないものです。
その精神はピストルズのコピーをするときにも、当然堅持しなければなりません。
つまり、スコアブックのような紙っきれに諾々と従ってはならないのです。
スコアブックとにらめっこしながら一生懸命練習して、「勝手にしやがれ」に収録された全ての曲がそっくりそのまま弾けるようになったとしましょう。
それを誰が誉めてくれますか?
「あいつ、スコアブックに躍らされてるぜ。ファッションパンクだな」とバカにされるだけです。
うっかりスコアブックを買ってしまった人は、いますぐ窓から投げ捨ててください。
しかし、パンクを始めようという多くの人は、スコアブックを見なければCDと同じように弾くことができないじゃないか、と考えるでしょう。
確かに耳で曲を聴いてコピーする技術(これを専門用語で『耳コピ』といいます)がなければ、CDと全く同じ演奏をすることはできません。
では、どうすればいいのか?
答えは簡単です。CDと全く同じに弾く必要は無いのです。
私たちはパンクです。
パンクですから、何よりも自分の感性に素直に従うべきです。
あなたが「まったくCDそのまんまだぜ!」と自信を持った演奏が、あなたなりの「正しいコピー」なのです。
ここで不安になってスコアブックを見たり、耳コピが出来る人に「オレの演奏、合ってるかな?」などと訊いてはいけません。
自分が信じられない人はファッションパンクです。
実際のところ、自分が確信を持った演奏がCDと同じかどうかなど、そんなことの真偽にはいかほどの価値もありません。
胸に刻んでおいて下さい。
世の人々がピストルズのコピーバンドに求めるものは、スコアブックの額面通りの演奏ではありません。
そんなものはファッションパンクに任せておけば良いことです。
真のパンクバンドとは、ピストルズのコピーを通じて己のパンク魂を見せつけるもののことをいうのです。
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