STEP10 「レコーディングに挑戦だ」



オリジナル曲はできましたでしょうか。
自信のあるオリジナル曲がたまってきたら、満を持してレコーディングに挑戦しましょう。
目指すはCDデビューです!
STEP10ではレコーディングの際に気をつけるべき事柄について触れていきます。
レコーディンはこれまでのパンク活動とは少し方向性の異なるものですから、注意しなければなりません。
しかし、根底に流れるパンク魂に違いはありませんので、一度理解できれば問題なくレコーディングが行えると思います。がんばってください!

・何のためのレコーディング?

ところで、なぜあなたはCDなりテープなり、とにかくレコーディングした音源を発売しようとしているのでしょうか。
その目的は確たるものとしておかねばなりません。
そして、パンクにおいてCDを発売する目的など言うまでもありません。
カネのためです。

考えてもみて下さい。
あなたのパンク魂を伝えたいだけならば、それはライブを数多く行えば良いだけのことです。
いくらリスナーがあなたのCDを聴きこんだところで、あなたはCDを介してリスナーをぶん殴ることなどできないのです。
CDではあなたのパンク魂を十全に伝えることはできません。
歌詞でパンク魂を表現するのが精々です。
CDを発売する理由は"カネのため"と割りきるのが肝要です。

実際、セックス・ピストルズのシングルやアルバムを見ても、彼らがそのような意図で音源を発売していることは明白です。
もしも彼らのレコーディング音源が、彼らがライブで演奏しているものほどラウドでアバウトなものであれば、果たしてあれほどのセールスを記録できたでしょうか。
私はそうは思いません。
彼らのレコーディング音源は、不快感なく聴くことのできるクオリティを保っていたからこそ、あれだけの売上があったのだと思います。
自分たちが本物のパンクロッカーだと主張するためには、演奏は下手なほど良いのですが、しかし、売上のため、カネのためには、レコーディング音源での演奏はある程度上手くなければならないのです。
そして、カネのためにレコーディング音源を作ることが正しいパンクロッカーの姿であるならば、クオリティの高いレコーディングを行うことも、また正しいパンクロッカーの姿だと自覚してください。

なお、私はSTEP1にてCDは軟派なメディアであり、パンクロッカーに相応しいメディアはカセットテープである、と断言しましたが、レコーディング音源を発売するにあたってはカセットテープではなくCDメディアによる発売を推奨します。
何故ならば、カセットテープによる量産よりもCDによる量産の方がより安価で手軽だからです。
また、最近はCDは聴けてもカセットテープは聴けないという環境の方も多いため、メディアをCDにした方が購買層の幅も広がります。
そういった理由からメディアはCDを選びましょう。
全てはカネのためです。

いいですか。
レコーディング音源の発売に関しては、「真のパンクスにだけ売れればいい」といった考え方は捨ててください。
全ての人を購買層に見込むのです。
もちろん、まったくパンクに興味のない人や、パンクを蛇蝎の如く嫌っている人には決して受け入れてはもらえないでしょうが、普通の音楽ファンは言うまでもなく、ファッションパンクすらも購買層に想定してCDを作るべきです。
全てはカネのためです!

・演奏はどうすればいいの?

レコーディングでは、ある程度クオリティの高い演奏が必要となることは前項にて述べました。
しかし、これは非常に難しい問題です。
これまで下手くそな演奏ばかりを心掛けてきたパンクロッカーが、いざレコーディングだからといって満足な演奏を行えるわけがありません。
最低限の演奏をするためには、地道に練習をして技術の向上を図るしかないのです。
ですが、あなたが本当のパンクロッカーであれば、そのような地道な練習などできるはずがないのです。

また、レコーディングというのは、実は最高の練習でもあります。
普段のスタジオであれば自分のサウンドは他の楽器と一緒に聴くことになりますが、レコーディングでは自分の音だけを集中して聴く事ができます。
すると、自分の演奏に何が足りないのか、どうすればより良い演奏になるのか、なども分かりますので、試行錯誤を繰り返します。
試行錯誤を繰り返すと、少しずつ自分の理想的なサウンドに近づきますし、また反復練習により演奏に安定感が出てきてしまいます。
レコーディングを行うと、このように演奏レベルが格段に上昇し、ライブでも安定感のある演奏をしがちになるのです。
これは非常にまずいことです。
パンクロッカーにとってレコーディングとは、自身のパンク生命に終止符を打ちかねない危険極まりない行為なのです。

じゃあパンクロッカーはレコーディングなんてできないじゃないか、そう思ったあなたは半分正解です。
そう、パンクロッカーにレコーディングなんてできないのです。
では、どうすればいいか?
簡単です。
メンバー以外の人が代わりに演奏をすれば良いのです。

実際、セックス・ピストルズにおいても、ベースの弾けないシド・ヴィシャスの代わりに前任のベーシストであるグレン・マトロックがレコーディングを行いました。
偉大なる先人に倣い、私たちも替え玉を用いてレコーディングを行えば良いのです。
もし、あなたのバンドに以前クビにしたベースの弾けるベーシストがいたならばチャンスです。
彼を呼び戻し、レコーディングをさせましょう。
とりあえず、これでベースはOKです。

ギター・ドラムに関しても、基本は替え玉です。
もちろん替え玉を用意するのはマネージャーの大切な仕事です。
メンバーに楽器の上手い知り合いがいる、などと期待してはいけません。
本当のパンクロッカーにとっては、楽器が弾ける奴らはみんなファッションパンクです。
彼らの間に交誼があるなどと期待してはいけません。
替え玉集めはマネージャー一人でなんとか成し遂げましょう。
こういうときのために人脈を確保しておくことも、マネージャーに要求される能力なのです。

どうしても替え玉が見つからない場合は仕方ありません。
自力でなんとかするしかないでしょう。
ギターに関しては、ディストーション・フランジャー・フェイザー・ワウなどのエフェクターを多用することで、ある程度は演奏をごまかすことができます。
しかし、ごまかせるのはある程度までです。
エフェクターを過信しすぎないよう、頼り過ぎないようにしましょう。

ベースとドラムに関しては、自力でのレコーディングは極めて厳しいものになると覚悟しなければなりません。
ベースとドラムは自力でのレコーディングがあまりに難しいため、うっかり打ちこみで代用したくなるかもしれませんが、しかし、それは避けるべきです。
確かに、最近は打ちこみも良い音色が多く、ベースやドラムに関しては生音かどうか判断し辛くなっています。
おそらく、ほとんどのリスナーは(特にベースに関しては)生音か打ちこみかなど聞き分けられないでしょう。
ですが、それらを聞き分けることのできるリスナーも、少ないながらも間違いなく存在します。
もしも誰かがそのことを見抜き、そして情報を広めたならば、あっとういう間にあなたのバンドはファッションパンク扱いです。
それまでずっと生音だと信じていたリスナーたちも、「そういえば音の粒が揃いすぎてる気がしたんだよなあ」「非人間的な正確さを感じたよ」などと口々に囃したてるでしょう。

打ち込みといえば、人々はすぐにテクノをイメージします。
そして、テクノは何故かパンクスから親の仇のように嫌われています。
なぜパンクスがテクノにこれほどの悪感情を持つのか良く分かりませんが、しかし、皆がそう言うのですから、ここは長いものに巻かれるべきです。
打ちこみを使うことはあまりにリスクが大きすぎますので、やはり打ちこみは避けるべきでしょう。

ベースに関しては、ギタリストが代わりにベースを弾く、というのも一つの手かもしれません。
ギターでさえ満足に弾けないギタリストがベースを十全に弾きこなせる道理はありませんが、それでも、ベーシストにベースを弾かせることよりは遥かにマシというものでしょう。

・ボーカルはどうしよう

ある意味、レコーディングにおける最大の問題がボーカルかもしれません。
というのは、ボーカルは普段のライブなどで声質を知られてしまっているため、替え玉を使うことができないからです。
もちろん、ものすごく声の良く似た歌の上手い人がいるとか、エフェクターで声質を完全にトレースできるとか、そのような条件が整えば話は別ですが、基本的にボーカルだけは自分で歌うしかないのです。

しかし、ボーカルが本物のパンクロッカーであれば、当然彼はリズムなど細かいことは分からないでしょうし、音程を取るなどの努力もしたことがないでしょう。
また、ギターのようにエフェクターでごまかすことも危険です。
マリリン・マンソンのフォロワーと間違われる恐れがあるからです。
結局のところ、ボーカルは独力で、それなりのクオリティの歌をレコーディングしなければならないのです。

さらに言うなれば、ボーカルとはやはり"バンドでいちばん目立つパート"です。
音楽を愛好している人やバンドをしている人ならともかく、多くのリスナーはほとんどボーカルしか聴いていません。そんなものです。
言い換えれば、曲とボーカルさえ良ければそれだけでCDはある程度売れてしまうのです。

ここで、セックス・ピストルズのボーカルを振り返ってみましょう。
そう、ジョニー・ロットンのボーカルです。
アルバム「勝手にしやがれ」などを聴いてみても、別にロットンの歌唱力が優れているとは思えません。
しかし、バンドのボーカルは合唱団の合唱ではないのです。
ただ歌唱力があれば良いというものではありません。
実際、ロットンは決して歌唱力は優れていませんが、それにも関わらず、彼のボーカルは大変魅力溢れるものです。
それはやはり、ロットンが自分のキャラクターをしっかりと把握し、それをボーカルに投影しているからだと思われます。
つまり、ロットンは歌唱力は低くとも、ジョニー・ロットンというボーカルを演じることにかけては卓越していたのです。

このように、バンドのボーカルとは、歌がそれほど巧くなくとも"ボーカルを演じる"ことができればある程度のクオリティには達することができるのです。
ですから、あなたは”ボーカルを演じる”、つまりジョニー・ロットンを演じれば良いのです。
まずはジョニー・ロットンの歌唱法を完全に真似することから始めましょう。
彼の歌い方を研究し、ブレス(息継ぎ)の位置やニュアンスなどを頭に叩き込むのです。
オリジナリティは必要ありません。
ただ、ジョニー・ロットンのモノマネができれば良いのです。
ご安心下さい。
ジョニー・ロットンのモノマネを完全にマスターし、それをあなたたちの曲に乗せて、あなたの歌詞で歌えば、間違いなく魅力的なボーカルになります。

・編曲しなおそう

あなたたちはSTEP9にてオリジナル曲を作った際に、その曲の編曲も考えたことと思いますが、しかし、ライブで演奏するための編曲とレコーディングで演奏するための編曲は全く別のものです。
というのは、そのままの編曲でCDを作っても売れないからです。
レコーディングにあたり、編曲をしなおす必要があります。

一度編曲したのにもう一回作りなおすなんて面倒くさいぜ、と生粋のパンクロッカーであるあなたはそう思うでしょう。
その通りです。あなたたちが編曲しなおす必要はありませんし、そもそもできないでしょう。
ここで登場するのが、やはりクビにした前任ベーシストなのです。

セックス・ピストルズにおいても多くの楽曲がシドの前任ベーシストであり、「ビートルズが好き」という理由でクビになったグレン・マトロックによるものといわれています。
マネージャーは以前クビにしたベーシストを呼び出し、全ての楽曲を編曲しなおさせるのです。
もともと曲の展開とコード進行くらいしか決まっているものはないのですから、ほぼイチから作り上げることになるでしょう。
それは大変な労力を伴う仕事ではありますが、彼も一時はパンクバンドに身を置いていたのですから、「いま自分はグレン・マトロックなのだな」と気付けば、喜んで編曲を引き受けてくれるはずです。

このようにして新しく編曲しなおされた楽曲は、まったくの別物といっていいほどに変化を遂げていると思います。
ギターやベースは基本的に替え玉を用意するのでこれらの編曲に文句を言うことはないでしょうが、問題はボーカルです。
ボーカルは人に決められた編曲に従わなければならないことが我慢できないかもしれません。
そういうときにボーカルを説得するのもマネージャーの仕事です。
カネのためにレコーディングをするのが正しいパンクの姿だ、売れるためには人の決めた編曲に従わなければならない、ということをなんとか説き伏せましょう。

もし、不幸にもあなたのバンドに前任ベーシストがいない場合は、やはりマネージャーが編曲家をどこからか引っ張ってきましょう。
いや、いっそのこと作曲家の方が良いかもしれません。


・レコーディングをしよう

無事に編曲を終え、替え玉も揃えたなら、ついにレコーディングです。
レコーディングですが、これは大きく分けて、2種類の方法があります。
一つはレコーディングスタジオなどを借りてレコーディングする方法で、もう一つは家に機材を揃えてレコーディングする、いわゆる宅録と呼ばれる方法です。
もし、あなたたちがいわゆるメジャーバンドであり、あなたの作るCDが全国のレコードショップに並ぶのであれば迷わずレコーディングスタジオを借りるべきですが、そうではなく、手売り販売やインディーズショップでの店頭販売などもっとミニマムなレベルでの販売であれば、レコーディングスタジオを利用することはあまりオススメできません。
レコーディングスタジオの利用は非常にお金が掛かるからです。
始めは、より安価な宅録を行えば良いでしょう。

機材を揃えなければならない宅録の方が機材費などお金が掛かりそうな気もしますが、最近はMTR(Multi Track Recorder)などのレコーディングに必要な機材が比較的安価で手に入りますし、それ以前に人から借りればタダです。
もちろん、機材を借りるのもマネージャーの仕事ですね。
実際、それらの機材に触れるのはマネージャーが用意した替え玉ばかりですから、乱暴に扱って壊すこともないでしょう。
さすがにドラムはスタジオでレコーディングする必要がありますが、他の楽器は全て家でレコーディングすることができ、大変安上がりです。
インディーズバンドには宅録をオススメします。
レコーディングスタジオを利用するのは、宅録に限界を感じてからで良いでしょう。

実際のレコーディングに関して注意すべき点は、非常に多くあります。
良い音でレコーディングするためには、たくさんの知識やテクニック、コツが必要になるのです。
しかし、そんなことはここで細々と述べるようなことではありませんよね。
あなたたちは替え玉に任せて、家で酒でも呑んでいれば良いのですから。
よりgoodなレコーディングを行うための知識は、マネージャーと替え玉たちがせっせと仕入れれば良いのです。
そのようなことは、パンクロッカーであるあなたたちの仕事ではありません。

・さあ、売りだそう

替え玉たちがレコーディングを終え、無事にCDが完成したら、早速それを販売しましょう。
ここでまず注意しなければならないことは、ちゃんとお金を取ってCDを売る、ということです。
初めて作った自分たちの音源は、それは愛しい物です。
自分たちのアイデアや、苦労したレコーディングの思い出がたくさん詰まっているからです。
お金は取らなくてもいいから、たくさんの人に自分たちの作品を聴いてもらいたい。
そう思うのも当然といえば当然であり、そういった感情から初心者は自分たちの音源をタダで配りがちです。

しかし、以前に書いた通り、パンクバンドが音源を発売する理由はただ一つ、カネのためです。
タダで配ってしまっては本末転倒。何のために音源を作ったのか分かりません。
それだけではありません。
タダで音源を配っていれば「あいつらカネも取らずに配ってるぜ、ファッションパンクだな」とファンからも愛想を尽かされてしまいます。
絶対にお金を取ってCDを売るようにしましょう。
幸いなことに、あなたたちはほとんど替え玉に任せてCDを作ったわけですから「タダでも良いから自分の作品を聴いて欲しい」などという感情とは無縁のはずです。
唯一、自分でレコーディングをしたボーカルだけはそのような感情を抱いてしまうかもしれませんが、一発ブン殴って目を覚まさせてあげましょう。

マネージャーは完成したCDをインディーズショップなどに委託販売してもらうため交渉することになりますが、このとき、ショップの店員から「いやあ、こんなレベルのものはウチには置けないねえ」などと断られたらチャンスです!
CDの宣伝チラシに「××店では販売禁止!!」などのアオリ文句を書くことができるからです。
そのアオリ文句を見て、多くの人たちは「そんなに過激なCDなのか」「これは期待できそうだ」などの感想を抱くでしょう。
ウソはついてませんから、JAROも怖くありません。

また、頼むところ頼むところことごとく断られ、おいてくれる店が一店、二店しかなかった場合は、「××店、××店でのみの限定販売!!」などのアオリを付けることで売れ行きをカバーしましょう。
基本的に人間は限定販売という言葉には弱いものです。
そして、あなたのCDを委託してくれる店が一店もなかった場合は……
「全店にて発売禁止!!!!」
イチかバチか、このアオリで勝負してみましょう。

マーケティングにおいて、CDジャケットは見過ごしてはならない大切なファクターです。
ジャケ買いという言葉がある通り、ジャケットが魅力的なものであれば、それだけでCDを購入する人も出てきます。
また、直接購入に結びつかないまでも、CDが人目を引くものであれば購入者がCDを手に取る機会が増え、それは売上数の増加へと繋がります。
CDジャケットを疎かにしてはいけません。

では、どのようなジャケットだと売上が期待できるのでしょうか。
人目を引くジャケットの条件はいろいろとありますが、ここで押さえておきたいのが、「何かを隠されると人はそれを見たくなる」ということです。
例えば、セックス・ピストルズのシングル「GOD SAVE THE QUEEN」のジャケットには目と口を隠された女王が印刷されました。
これに倣い、私たちも"何かを隠した"ジャケットを作るべきです。
別に隠す必然性のないジャケットであっても、とりあえずモザイクをかけてみたり、とりあえず墨を入れてみたりしましょう。
元々がどうということのないものでも、隠すことで卑猥な想像を喚起したり、危険さを醸し出したりする事ができます。
これだけでもCDの売上はグッとアップすることでしょう。

もう一つジャケットに関してですが、必ず付けておきたいのが下のマークです。



これは洋楽のCDなどに付いているマークで、「歌詞の中に下品な表現が含まれています」などの意味です。
日本でもゲームのジャケットに「このソフトには暴力や過激なシーンが含まれています」といったロゴが見られますが、それと同じようなものです。
具体的には、歌詞の中に「Fuck!」「bitch」などの言葉が含まれていればこのマークを付けられるようです。

このマークは本当はアーティストが嬉々として付けるようなものではありませんが、パンクCDであれば話は別です。
いわばこのマークは「このCDには卑猥な表現が含まれていますから、パンクスの皆さんは安心して購入できますよ」という一種の証明書たりうるのです。
みなさんも、パンクロッカーの作品だと思って買ったCDに一語も「Fuck!」が出てこず、「ファッションパンクかよ、クソッタレー!」と叫んだ経験が一度はあるかと思います。
最近はこのマークができたおかげで、安心してパンクCDを購入できるようになりました。
みなさんがCDを作る際には、良く見える位置に、誇らしげにこのマークを示すようにしましょう。

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